廃墟団地にて
投稿者:ウェンディゴ (8)
実家の近所に〇棟団地という巨大な団地があった。螺旋階段が特徴的で当時から不気味な様相だったが、飛び降り自殺があってからは不気味さに箔がついた。10代の頃、団地は廃墟になり私と仲間はよく学校や塾をサボって団地へ侵入し、たむろして遊んでいた。
室内は鍵が壊されていて中に入れたが、ドアを開けた途端、息ができないくらい空気が違っていた。すでに心霊スポットと化していたらしいが当時はあまり自覚はなく、家庭が荒れていたので〇棟へ行くのが面白くてほぼ毎日行っていた。
ある日、友人と二人でいつものように裏から侵入ししゃがんで話をしていると、突然上からテニスボールが落ちてきた。なんだろうと思い見上げると、柵の上からお兄さんがのぞいていて、白いテニスのユニフォームを着ていた。私たちはボールを渡した。昼間でも暗い団地の敷地内なのにお兄さんの顔だけ眩しくて全く分からなかった。でも気にならず他愛もない話をしていた。
すると、テンっ、と音がして振り返ると同じ場所にテニスボールが落ちていた。見上げると、お兄さんがのぞいていて暫くこちらを見つめたあと
「きみたち、そんな所で遊んでて楽しい?」と聞いてきた。やっぱり顔が見えない。
私達は適当に返事をした。叱られたわけではないが何だか気まずい感じになって、もう帰ろうと言い友人と別れ私も家に帰った。夜になり、なにかがおかしいという違和感がありよく考えてみて。。。やばい。と気づいた。お兄さんは上からのぞいていた。でものぞけるわけがない。侵入できないよう柵は高く、有刺鉄線がはってあるのだ。そしてテニスコートは団地の遥か下、坂を下った所にあり、団地の裏側にボールが届くはずがない。そしてお兄さんの顔が分からなかった。話しかけられた時は気まずい気持ちがあり怖さはなかったが、後になって恐ろしくなった。確認したいのに友人に聞く勇気が出ず、友人も何故がそのことに触れない。その友人と〇棟に侵入しに行ったのはそれが最後になった。お兄さんは、そんな所にいてはいけないという警告をしてくれたのかなと今は思う。〇棟団地はやがて取り壊され更地になって20年ほど経つが、今でも夢に出てくる。
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