物件調査の話
投稿者:ウェンディゴ (8)
住宅会社に勤めていた頃の話。
山陰地方に転勤になって1週間程がたったある日。
物件調査してきてくれと上司に伝えられ、前任が書いた資料を渡された。その書類には今は古い一軒家が立っていると書かれていた。
私は、その資料をもって現地に向かった。
上司には「ここ前任のAさんも見に行った所だけど、かなり田舎だから朝早くでかけたほうがいいよ」と言われていた。
私は数件の打合せをこなした後、住所をナビに入力して現地に向かった。
地方都市の事務所から、あっという間に田舎道にはいり、少しずつ林が生い茂る景色に変わった。ナビのルートでは長時間、山道を走ることになる。
道なりに車を走らせていると、あたりはどんどん暗くなっていった。山をこえて、ちょうど海の手前に目的地がある。その目的地に向かう山の上には重い雲が立ち込めていて雷が光っている。
山に入ると途端にフロントガラスに雨が叩きつけてきて雷鳴も響いてきた。
そんな雰囲気をやわらげるためにラジオをつけると昭和の歌謡曲が流れていた。
しばらくすると雨はひときわ強くなり雷の音も大きくなった。
近くに落ちたか?と思った瞬間、歌謡曲が途切れ「あぁぁぁぁぁ」と男の声のようなノイズがスピーカーから聞こえてきた。
怖くなり、ラジオのスイッチを切って、走り続けるとまた雷鳴が響いた。
その瞬間、消したはずのスピーカーから「あぁぁぁぁ」と男の声が聞こえた。
私は驚き、路肩に車を止めると男の声は消えた。
気を取り直してナビのルートを確認するとゴールを示すGのマークが数キロに迫っている。そろそろ着くかなと思い、再び車を走らせた。
すると、またスピーカーから「あぁぁぁ」という声が聞こえはじめた。
ふとナビの画面を確かめるとさっき確かめたゴールのGマークが点滅して消えて、走行履歴を示す紫のラインがグングンと伸びている。
そのラインは道の先の林を抜け、崖まで伸び、海に向かっている。
アクセルを踏んでいないのに車は少しずつ加速しはじめた。慌ててブレーキを踏んだ。しかし逆にぐんぐんとスピードを上げはじめる。
焦った私はハンドブレーキを引いて、もう一度、思いっきりブレーキを踏んだ。何とか車は止まった。
ふとナビを見てみると、さっきまで表示されていた紫の履歴ルートは消えていた。
後で聞いたのだが前任の人は、今も壊されずに立っている、この家を見に行った時に事故でなくなったという。
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