老婦人と白い犬
投稿者:ウェンディゴ (8)
小説家の私は午前中に仕事を終えて、午後から犬の散歩に出かける。それが毎日の習慣だ。
私の犬は中型の雑種。黒っぽいという単純な理由で「クロ」と名付けた。
散歩のコースは適当に近所をぶらぶらと歩いて、大きな公園を一周して帰るのが日課だった。
毎日のように散歩をしているとペット連れの人と軽く会話を交わすようになる。
そんな顔見知りのなかで印象的なのは白い犬と散歩する上品な老婦。仲良くなった理由は、白い犬のことを「シロ」と話しかけていることに共感したのがきっかけだったような気がする。
ある日、公園のベンチで、その老婦と話をしていると「今日はなくなった夫の命日なのよ…夫はヘリコプターのパイロットをしていてかっこよかった…でね、このシロは夫が亡くなった日に家のまえで、まるで私が帰るのを待っていたかのように座っていた」といった。
私はしんみりしたムードを変えるように「じゃあ記念と言っては何ですが…写真でも撮りましょうよ」とスマホを取り出して、老婦を挟んでシロとクロの3ショットを撮った。
それから、しばらくして老婦は見かけなくなり、ちょうど一年が過ぎたころ、いつものように公園を散歩してベンチに座り、何気なくスマホを見ると、一年前の思い出、と表示された写真が画面に映った。
懐かしいなと思って眺めていると、違和感を覚えて胸がざわざわと胸が騒いだ。
老婦を挟んで座るクロとシロ、二匹とも同じ方向の空を見上げている。
その視線の先に小さいがはっきり輝くヘリコプターが写っていた。
いい話