ファミレスの藪蛇
投稿者:すだれ (27)
重い、重いため息を吐きながら友人は首を擡げて話す。
「あの辺りね…事件や事故の話は聞かないけど、確かに店の入れ替わりは激しいよな」
店を辞めて随分経った今、ファミレスは数回経営者を替え、店員も総替えしてタイ料理専門店になっている。
「あの店、客の中からたまに「出る」って証言があったけど、タイ料理屋になってからは聞かないな」
「…ほう」
「女の子だよ。通路だったり端の席だったり、たまに佇んでたんだって」
「表情は?」
「そこまではわからない」
随分昔だし資料もない、わかるのはこのくらいか…と酒に手を伸ばすのと。
それにしても、と友人が頬杖を付くのは同時だった。
「随分躍起になって調べたんだな、当時」
「まあな」
「珍しいと思った。お前は他人のアドバイスは比較的素直に聞くのに」
「そうか?」
「こういう、霊的なヤツ以外はな。でも当時のお前は、先輩のお姉さま?の忠告は聞いてない。というより…何だ、そう、」
「……」
「信用してなかったんだ。当時のお前は、姉さまの言葉を何1つあてにしてない」
「…ふむ、我が友人は目敏い」
コン、と音を立ててグラスを置いた。
「あの時、調べても無駄だと笑った姉さまに言ってみたのさ。あのひきつったまま固まった顔を思い出すと、意地悪してしまったと今でも思うがね」
(あの、1つだけいいっスか)
(自分は最初に、今までにこの店で死人が出るような出来事がなかったか聞いたんスけど)
(なんで死人を「子ども」って限定したんですか)
「…おい、ちょっと待て」
「モヤの、子どもの正体がわからないのは本当だ。何なら彼女が疲れて見た幻覚の可能性もある。…ただ、姉さまが何かを知っていながら隠していることは確信した。それが何かが気になったんだ。モヤと関係あろうとなかろうと、確実に1人の子どもは死んでいて、事情を知る人物がそれをひた隠ししようとしていた」
「タイ料理屋になって…従業員総替えしてから目撃情報が無くなった、か。…なあお前、バイク事故ってその姉さまに轢かれたとかオチはねぇだろうな?」
「安心しろ。あれは本当に1人で転んだ自損事故だ」
「何一つ安心できない。ガチの藪蛇じゃねえかお前…」
眉間に皺を寄せる友人のグラスに酌をし、自分の分も注いだ。他に調べる手立てはあるだろうか、とぼんやり思考していると隣から「もう首突っ込むなよ」と低い唸り声が聞こえ、思わず苦笑して「わかったよ」と返事をした。あの黒く塗り潰された子どもの表情はついに知れないまま、話題は目前の肴の話に移った。
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