ファミレスの藪蛇
投稿者:すだれ (27)
「以前、この店で事件事故のような、何か死人が出るような出来事はありませんでしたか」
後輩がすでに辞めた今、聞いても藪蛇ではあったが。
「このお店で子供が死んだって話は聞いたことが無いね」
「私たちが勤めてからも無いしね、そんな話」
「ただまぁ、昔は何かあったんじゃない?」
「ここ今はファミレスだけど、お店コロコロ変わるし」
「前は焼肉屋で、その前は鍋専門店だったわね」
「経営者もあまり長続きしないの、客入りは悪くないと思うんだけど」
「お店というより、この場所に何かあるのかもね」
調べても何もわからないと思うよ、私も何も知らないしと1人の姉さまは笑った。
それからの開店準備は1人でこなした。
後輩が見たものが霊的存在か幻覚か吟味する間、姉さまの忠告は脇に置いて店に関してそれなりに調べてみていた。
地元の文献を漁っても特に事件事故の記録は無い。
有名な瑕疵物件がまとめてあるサイトでも調べたが該当する項目は無い。
一応、過去の経営グループに関しても調べた。無駄な労力に終わった。
場所が関係しているという線はこの時点でもうあまり追ってなかったが、あのモヤの子どもが店以外の何かに起因しているとして。座敷童のような存在ならいいが、経営者が短期間で替わっている点を加味すると判断し難い。
「なぁ、今もここのどこかにいるんだろう。君は後輩に何と訴えていたんだ」
開店前の薄暗いフロアを1人見渡しても、モヤも子どもも自分には見えなかった。
「…結局詳しいことはわからないまま、ファミレスは辞めたよ。その翌日にバイクで事故に遭ってドクターストップがかかったんだ」
「なーんーで、見えもしないのに話しかけるんだよ」
「こちらから問えば何かしら返事があるかと思ったんだが」
「意思疎通なんかできるわけねぇだろ、アレらと」
できるなら後輩ちゃんは辞めてねぇよ、友人は酒を煽った。
あのモヤについて、当時から今まで結論が出せないまま至ったが、もう時効だろう。いわゆる霊感のある友人に話してみた。
「バイクって何、車と事故ったの?」
「いや1人で転んだ。打ちどころが悪くて首のコルセットが数週間取れなかった。親には申し訳なかったな。何せその半年前にもバイクで転んで搬送されてたから」
「申し訳ないって思うなら変に絡みに行くなよ…あともうバイク乗るなお前」
「店のモヤをバイク事故の因果とするのは早計だろう」
モヤのことは親にも言えなかった。母も霊感のある人だったから、言えば何かわかったかもしれないが。
ただ、ファミレスを辞めると言った時、母はひどく安堵していた。
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