タクシー運転手Aさんに聞く２

ああ、この間の方！こちらこそどうも。先日はご利用ありがとうございました。
いえいえ、僕もね、ああいう……幽霊乗せたみたいな体験は他のお客様には絶対お話できないですから。客商売ですもん。
ああやって人に話せてね、良かったですよ。

いやー、あれ以来例の骨壺のお客様は乗せてないですねえ。ええ、そりゃ安心してます。
お客さんにお話したあと、今更怖くなっちゃって。
いや本当に。

で、この間ね……そうです。またありました。
○○駅の前で男性のお客様を三人お乗せしまして。お一人は素朴で真面目な感じの方。あとのお二人は結構お洒落というか、派手というか、パリピっていうんですか？こう、テンションが高めのお二人でね。
心霊YouTuberやってるそうなんです。
これから心霊スポットに撮影に行くんだと。

車中、パリピなお二人は色々僕に話しかけて下さってね。
もう一人の真面目風のお客様は緊張してるのかずっと黙ってましたけども。

お送りした場所はまあ、山の中……というか、山の入り口みたいな感じで。もうそこらじゅう雑草やら木やら茂ってましたよ。
そこに幽霊が出る廃屋があると。

つつがなく目的地に着いて、ずっと黙ってらした真面目風の男性に料金お支払い頂いて。
で、降りたんです、三人とも。そしたらね、パリピなお二人スゥーッと消えました。僕の目の前で。

ええと、獣道みたいな場所へ入っていく所で、ですね。ちょうど僕に背中を向けてたお二人が、消えたんです。スゥーッと。
いや歩いて行ったとかじゃなくですよ。本当に姿が消えて。
薄くなっていく感じで。スゥーッと。

ええ？って思って窓から見てたら、真面目風の男性は僕に向かってお辞儀して獣道に入って行かれました。

お恥ずかしながら僕も、人間だと思ってたお客様が目の前で消えたもんだから、もう呆然としちゃってね。
男性の姿が獣道の中に隠れてからやっとハッとして、警察に通報したんです。

懐中電灯も持たずに山の中に入って行くなんて危ないし、もしかしたら自ら命をこう……アレしちゃう可能性ありますから。
あとはね、警察の方にお任せして戻りました。あの男性のお客様、無事に見つかってるといいですけどねえ。

なんだかもう訳が分からないでしょ。
でも、そういう訳が分からないのが実際に経験した心霊体験なのかなあとも思いますね。
そうそう。映画みたいにはならないんですよねえ。
あれがああなってこうなって実はこうだったんだ、って説明してくれるのは映画とか心霊番組の中だけなんだなあと。

しかしびっくりしましたよ。
あれだけね、車中で楽しそうに僕に話しかけてくれて、わーわー賑やかにしてたお二人が幽霊だったのかもしれないんですもん。
人間にしか見えなかったんですよねえ本当。