選択しなかった側の記憶
投稿者:八尺マン (46)
確かに俺は学生時代に母親に割とマジな殺意を持っていた
けど、俺は抑えた
自分の未来があったからだ
今では母親を殺そうとは思わないし、これからもそうだ
もう俺はあの人なしで生きられるのだから、もう関わりたいとは思わない
では、何故、こんな記憶が浮かんできてしまうのか
自覚していないだけで、あの人への殺意はまだあるんだろうか
俺、悩んで、ある日、俺の先輩に相談してみたんだ
大学時代に知り合った人で、オカルト絡みの専門家を名乗る変な男だ
ただ変な人ではあるけど、悪い人じゃあないんだ
実際にそういった通常のやり方では解決できないことを、何度も解決している人ではあるんだ
その人に、俺は存在しない記憶があることを相談した
すると、彼はこう答えたんだ
「それはな、存在しないわけじゃない。お前が母親を殺した世界と殺さなかった世界とで分岐がなされたってことだよ。つまりはパラレルワールドだ。そういった分岐はどっちの選択もありえるという拮抗した状態になるとなされるんだ。つまりはその記憶は母親を殺した世界のお前の
記憶だ。それがこっちの世界に干渉しているんだな」
そいつは、そんなとんでも話をさも当たり前のように話すんだ
気だるそうに、ただ淡々と
「それだけお前の母親への殺意は本物だったということだ。まあ、お前はこっち側でよかったじゃないか」
そう言って話を終わらせようとするから、さらに聞いた
それで俺はどうすればいい?
どうすればこの記憶が浮かばなくてすむ?
「受け入れてやれ。殺してしまった側のお前を。俺は耐えられたけど、そっちの俺は耐えられなかったんだな。大変だったなってな。そうすればあっちのお前が干渉してくることもないだろうさ」
そう言って去って言った
馬鹿げた話だろう?
でも、その男に言われると、何だかそうなのかもって思えてしまうんだよ
で、その通りにしてみた
これまではその記憶が浮かぶ度に気味悪く感じて、さっさと消えてくれって思ってたんだけど、それからは否定しないで浮かんでくる記憶を受け止めて、大変だったなって思うようにしたんだ
そうしたら、段々と浮かぶ頻度が減っていったんだよ
毎日のように浮かんできていたのが、今は一か月に一度あるかないかだ
あっちの俺の気が済んだってことなのかな
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