枝女
投稿者:A (4)
唐突におもらし宣言をしたCの小粋な冗談に少し吹き出してしまったが、どうにか三人とも落ち着いてきたようで、早く下山しようと言う意見で合致した。
ただ、下山する最中もやっぱりあの女の事が未だ鮮明に記憶に残っている事もあって、Bが運転する間は俺とCが四方八方を警戒しまくっていた。
幸運な事に麓に降りるまであの女とは遭遇する事はなかったので、麓に降りた時も三人共盛大に安堵の溜め息をついたものだ。
夜中の山中で女の幽霊と遭遇する。
そんな恐怖体験から早三ヵ月が経過した頃、Bが自動車事故を起こし、両足骨折の重傷を負った。
当時は集中治療室に搬送されるなどかなり凄惨な事故だったが、今では意識も戻りリハビリ生活を送る程度には回復している。
俺とCは何度かお見舞いに行ったんだが、ある日、Bから神妙な面持ちで語られた内容が今でも頭を離れない。
その内容というのが、事故の瞬間、Bが運転する車の車線上に突然あの時山の中で遭遇した女が現れたかと思えば、フロントガラス目掛けて走り出してきたそうだ。
あの不気味な顔を満開な笑顔に変えて、フロントガラスにぶつかったと思った時にはBは衝突事故を引き起こしていた。
そして、夢の様な空間が広がったかと思うと、あの女が顔を覗き込んできて「コ」と何度も呟くという悪夢にうなされたらしい。
そして次に目を覚ますと病院のベッドの上だったと言うのがBが語ってくれた事故の全容だった。
そんなオカルトな話を聞いてどう返答したらいいか分からずに俺とCは「疲れてるんだよ」とBの機嫌を取りながら一端は励ましていたが、どうにも胸の内につっかえたものがすっきりしない感覚に溺れていた。
しかし、実はCもそれから数週間後に事故に遭っている。
Cはバイト先の工場で機械に袖口の布が巻き込まれた事で小指を切断するといった重傷を負った。
幸いすぐに異変に気付いた社員が機械を停止して切断された小指を回収し氷水に浸ける等の対処法をしてくれたおかげで、緊急搬送された病院で縫合する事ができたそうだが、以前の様に繊細には動かせなくなった。
ただ、Cも事故の後にBと似たような事を俺に語ったのだ。
「いつも通り仕事してたらさ、突然視界にあの女が現れやがって俺の袖掴んで引っ張りやがった」
と肩を震わせながらつらづらと語ってくれた。
そして、Cも当日の夢の中にあの女が現れると「ロ」と何度も呟いたそうだ。
Bが「コ」でCが「ロ」。
俺はあの時女がフロントガラスを覗き込んで何やら口を動かしていた事を思い出す。
三文字の言葉をはっきりと口にしていた筈だ。
「コ……ロ……」
俺はその先に続くであろう言葉を発する事はしなかった。
もし俺が考えている通りの言葉だとしたら、恐らく順番的には次は俺の番の筈だ。
あの時、あの女が車内を覗き込んだ時、女はB、Cそして俺の順番で見ていた。
俺はいつ起こるかもしれない事故に怯えながら今現在を生きている。
不謹慎ながら、BとCの事故や夢がただの偶然であって欲しいと願うばかりだが、最近街ですれ違う女性の顔があの女に見えて仕方がない。
どうか、あの枝の様に細い女が俺の所に来ませんように。
今はそう願うばかりだ。
最後の一言は「ナ」かもしれない…
「最後の一言は「ナ」かもしれない…」
だといいですね。
あえて最後の主hン巻を言わないのがいい恐怖感が出ていい。