アパートの黒い男
投稿者:どんぶりあたま (2)
母は腑に落ちないような表情で帰っていきました。
また、こんなこともありました。職場で同僚でもある友達に、「最近彼氏できた?」と唐突に尋ねられびっくり。
そのとき私は独身で、男友達もほとんどいませんでした。
「できてないよ。なんで?」と尋ね返したところ、彼女は不思議そうに、最近アパートの前で私と男性が一緒に歩いているところを見たというのです。
私の隣を歩いていたその男性が一緒にアパートの中に入っていったため、彼氏ができたのかと思っていたと。
私は誰かと一緒にアパートに帰ったことはなく、ましてや彼氏と勘違いされるような知り合いもいません。
思い当たることが全くなかったので、人違いだったのでは?と答えましたが、確かに私だったと友達は困惑していました。
今思えば、友達が見たのは何だったのか少しわかる気がします。
それからまもないある夜。
私はいつも布団を敷いて寝ているのですが、その日はなんだか寝ている間に重苦しさを感じたことを覚えています。
まさに空気が暗くよどんでいるような感覚。
目を閉じていながら、なぜか自分の部屋の様子がはっきりわかったのがとても不思議です。
私は真っ暗な部屋の真ん中に1人寝ていて、玄関のドアは施錠しています。
しかし、玄関の方から誰かが部屋の方までゆっくり向かってくる気配がします。
ドアが開く音はしていないのになぜ?と思いながらそちらを見ていると、大きな真っ黒い人が現れました。真っ黒い、としか形容ができません。
顔も髪も体も服も何もはっきり見えず、どこもかしこも真っ黒い人です。ただ、なぜか男性ということはわかりました。
その真っ黒い人はとても大柄で、玄関への廊下をふさぐように立っています。
そしてそこにしばらく立った後、私の布団の周りをゆっくり回り始めました。
何も言わず、私の方を見ることもなく、ただのろのろとした動きで布団の周りをまわるのです。
あまりの不気味さに目を閉じたいのですが、そもそも目を開いていないのです。なのに、自分の布団をひたすら繰り返しまわり続ける人ははっきり見える。
その光景から目をそらせず、体を動かすこともできず、「怖い!何なの!早くどこかに行って!」そう願っている間に意識が遠のき、気付いたら朝になっていました。
起きて念のため確認しましたが、やはり玄関のドアは施錠されたままでした。
それからまもなくして、私はその寮を出て別のアパートに引っ越しました。
その後会社も辞めたので、そのアパートが今どうなっているかはわかりません。
何年か後になって、実家でふと母にあのときの話をしたことがあります。
アパートにまつわる噂や、あの部屋であった真っ黒い人の話、母は驚く様子もなく聞いていました。
「そうだろうね。あの部屋は何か変だったもの。そういうことが起きてもおかしくないね」
母が一体あのとき何を感じていたのか、考えると今でも背筋が少しひんやりします。
ゾクゾクしました。お母様も感じる方なんですね。