林の中の喰う男
投稿者:すだれ (27)
友人が参拝したのは此方が参拝した所とは違う地元の神社だった。
林に囲まれた、300段以上ある石段を上って頂上の本殿を目指す。
「屋台も来ててすごく賑わってたな。混んでたけど整備はされてたし」
母の膝と腰を労わりながら、のんびりと石段を上っていた一行。
すると、同じように石段を上っていた別の家族の子供たちが元気よく自分たちの母を呼んでいた。
「おかあさーん!あのひとなにしてるの?」
声が耳に入り、友人はその子供たちの方を見る。
双子の男の子たちは母に呼びかけながら石段横の林の中を指差していた。
「おかあさん、あのひとなにたべてるの?」
「どこ?誰もいないよ?ユウちゃん、お腹空いてるの?」
「んー?すいてるけど…ねぇ、あのひとは?」
「いないよ?ユウちゃん、コウちゃん、一番上まで上ったら出店で何か食べよっか」
「ほんと?」
「やった!」
家族はそれっきり、友人たちを追い抜いて頂上へ行ってしまった。
友人は林の方を見て固まっていた。
双子の男の子たちが指差していた先には、
「ガリガリのおじさん。布っ切れみたいなのを着た、骨と皮のおじさんが白い蛇をわし掴んで噛みついてたの」
髪はボサボサに生え散らかし、頬はこけ虚ろな眼球がギョロリと浮き出た、一昔前の浮浪者のような風貌の男が、林の中にうずくまり蛇に貪りついていた。
男の歯が蛇の皮を貫通し、奥の肉の繊維をブチリブチリと噛み切っていく音が、参拝者の喧噪の中でも響いて届く。
蛇は尾も頭も力なく垂れ、男の身体の揺れに合わせてぶらぶらと振り回されていた。
どこを向いているのか、焦点が合っているのかすらわからない男の視線がこちらに向くことはなかったが、友人は家族に肩を叩かれるまで男から目が離せなかったという。
「食べてたの蛇だし、単純にヤバいおじさんいるなって思った。けど頂上の本殿のある境内の空気がすごく澄み切ってたから、もしかしてあのおじさん、神社に入ろうとしてた悪い存在を食べてくれてたのかなって思うようになったよ」
でも神社を守ってる存在ならもう少し容姿どうにかならなかったのかな、と苦笑する友人が、こちらを見て止まった。
「どうしたの?顔色悪いよ」
「気のせいだよ」
「何か言いたいこと…というか、気づいたことあるの?」
「事故で運ばれた子供に心霊体験か否かを教えない親心には気づいたかな」
「私は子じゃないし、あなたは親じゃない。ここで止めたらそれこそ気持ち悪いし、話して」
さぁ、と促す友人に渋々、口を開く。あくまで数ある解釈のうちの1つだが、と前置きをして。
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