林の中の喰う男
投稿者:すだれ (27)
長編
2022/06/22
18:58
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「蛇、という存在には確かに邪なものが多い。恨みを持って死んだ女が大蛇に化けて男を絞め殺す、なんて昔話もある」
「うん」
「しかし白蛇は少し事情が変わる。その希少性から縁起物として扱われ、地域によってはそれを祀る所もある。…無論、その逆で火にくべてしまうという地域もあるから一概に言えないが…」
「…その縁起物の白蛇を食べるって…」
「その神社、境内に続く石段の入口…山の麓に鳥居が立っていたな。鳥居は神様のなわばり…神域と、人間の住む世界…俗界との境目に置かれる。その神社の神様の神域は境内だけじゃなく、石段や林を含む山全体。…であったとしたら、」
「だとしたら?」
「男こそ神域に侵入した悪い存在かも知れない。それも神域にいた白蛇を食ってしまうほど、強力な」
それと同時に、その神社の神様は男の侵入を許すほどに神としての力が弱まっているのかもしれない。
「…重ねて言うが、これは数ある解釈の1つに過ぎない」
念を押すように言ったが、友人に聞こえたかはわからない。
こちらは想像しかできないが、友人の耳にはこびりついている。骨ばった男が白蛇を執念深く噛み潰し、皮を、肉を引きちぎる音を。
鮮明に思い出される音から逃れるように耳を塞いだ友人に、こちらの声が届いたかはわからない。
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