「俺が見えてるんだろ」

走っている間もずっと真後ろから「おおい、逃げるな、おおい、俺が見えてるんだろ、おおい、おおい、逃げるな！」、男性の引き止める声が聞こえ続けます。
普段全然運動をしないので数分走っただけで息が切れて足もガクガクしてしまったのですが、立ち止まったり後ろを振り向いたらどうなるか分からない恐怖から、ひたすら走りました。
走って家に到着して、階段を駆け上がって自分の部屋の前まで行って鞄から急いで鍵を取り出し、鍵を開けてドアノブを捻ろうとした瞬間、「捕まえた」と耳元で聞こえたのです。

その後のことは覚えていません。
私はいつの間にか自分の部屋のベッドの上にいました。
「あれは夢だったのかもしれない」と思い、忘れることにしました。
でも、あの体験をしてから毎日、ふとした時に耳元であの男性の「おおい、俺が見えてるんだろ」という声が聞こえるようになってしまったのです。

勇気を出して後ろを振り向いたりしても、姿は見えず、声だけが聞こえてきます。
すっかりノイローゼのようになってしまった私は、声が聞こえるようになって1ヶ月目にお祓いへ行きました。
それまでに病院へ行ったりカウンセリングを受けたりしたのですが、全く改善しなかったので、「もしもこの声の正体が霊ならばお祓いで解決するかもしれない」と思ったからでした。

お祓いは、友達に聞いて教えてもらった、とあるお寺で行いました。
住職の方がお祓いをしてくれたのですが、「浮遊霊で、あなたと波長が合ったから何とかしてくれると思ってついてきたようですね」と言われました。
その時、「そう言えばバイト先の近くにある川で、最近亡くなった人がいたな。確かその人はよくお店に来ていた男性のお客さんだったな」「あの声は、亡くなったお客さんの声に似ていたかもしれない」と、次々思い出してきました。

お祓いに行った後は、男性の声は聞こえることはなくなりました。
亡くなったお客さんとはお店で何度も話しをしたことがあったので、無事に霊現象が収まってホッとした気持ちと、助けを求めてきたのに無視してしまい申し訳なかったなという複雑な感情があります。