誰かが飛んだ
投稿者:狐の嫁入り (6)
──ビチャ!
「え……?」
顔に液体のようなものが飛び掛った。
目の前を電車が通り過ぎ、やがて急停止した。
生暖かい感触が頬をつたう。
京子さんはそれを両手で拭い視線を落とした。
鮮血に塗れた手。
そこには赤い血と混ざり合い人間の皮膚の様なものも見て取れた。
「飛び込みだ!!」
「お、女が跳ねられたぞ!!」
「きゃあああっ!!」
再びホームが阿鼻叫喚に包まれる。
「ああ……あ……あ”あ”……」
余りのショックで声が上手く出せない。
叫び声すらも挙げられなかった。
京子さんは震える眼で線路に視線を向けた。
徐々に流れ出る血が、大きな血溜まりを作り上げていた。
電車の下に僅かに見える肉塊には、見覚えのある白いセーターらしき衣類が見て取れた。
以上が京子さんが体験した話だ。
その日起きた事件は一件だけ、身元不明の若い女性の人身事故として、ニュースでは報じられた。
しかし警察の取り調べはかなり難航したという。
目撃者は数多く居たのに、二番ホームで実際に起きた事故に関しては、誰も飛び降りた所を見ていないと言うのだから……。
後に駅の監視カメラなどで捜査はされたようだが、その詳しい捜査内容と結果は未だ公表されておらず、事件は闇の中へと葬られた。
その後、その駅では噂ではあるが、裏マニュアルなるものができたらしい。
その内容は、もし飛び込み事案が発生しても、確認を怠らず次に厳重警戒せよ、との事だ。
次とは……一体何を指し示しているのか……。
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