殺意の矛先
投稿者:狐の嫁入り (6)
これは、四国に住む松原さんの弟さんから聞いた話だ。
松原さんには一つ上の兄がいた。
松原さんの両親は早くに亡くなっており、家には兄弟だけで住んでいる。
互いに三十代独身。
それほど仲が良いとはいえないが、お互いの事には干渉はしないといった暗黙の了解の中、二人は暮らしていた。
そんな二人だが、食事にもルールがあった。
夕食当番だ。
松原さんの家では週事に夕食当番を交代するという取り決めがあった。
そんなある日の事。
本来仕事が遅出の予定だった松原さんだったが、その日に限って早番に欠が出てしまい、早朝からの出勤となってしまった。
その仕事も終わり松原さんは家に帰ると、ソファーに力無く座り込んだ。
「腹減ったな……」
考えてみればバタバタしていて朝昼何も食べていない事に気が付く。
松原さんはヨロヨロと立ち上がり冷蔵庫の中を覗いて見たが、特に今すぐ食べられそうな物は何も無い。
松原さんはため息をつき再びソファーに座り直した。
ふと天井を見上げる。
「兄貴まだ寝てんのかな……」
松原さんの兄はほとんどの時間を部屋で過ごしている。
週に二~三日、日払いの仕事をしたら後は部屋に引き篭る毎日。
光熱費や食費も折半なのだが、兄の仕事が不定期なのもあって、それも滞る事がよくあり、最近では食費のほとんどを松原さんが支払っている。
不意に彼はキッチンに目をやった。
どうやら晩ご飯はもう作ってあるらしい。
今週は松原さんの兄が夕食当番だ。
しかし彼が遅出の日は夕飯を職場で済ませる為、松原さんの分はない。
彼はソファーから立ち上がると鍋の蓋を開けた。
煮魚、尾頭付き。松原さんの大好物だ。
魚は冷蔵庫にもう一匹ある。
「頂いちゃうか……」
松原さんの兄は夕飯をかなり遅い時間に食べる。
昼夜が逆転しているからだろう。
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