アユミちゃんの家
投稿者:足が太い (69)
小学生の時、習い事をしていて、そこで違う小学校に通うアユミちゃんという同年代の女の子と仲良くなりました。
アユミちゃんは何て言ったらいいのか、とても存在感が薄い子で、時々ふっと気配がなくなることがあったのです。
気づいたらいつの間にか後ろにいたりして、ちょっと変わった雰囲気があるけど、悪い子ではありませんでした。
アユミちゃんと仲良くなって1週間くらいした頃、「今日、習い事の後に家に遊びに来ない?」と、誘われたのです。
いつもは18時頃に習い事が終わるのですが、今日は先生の都合で1時間早く終わるので、ちょっとだけ家に来ないか、と。
アユミちゃんの家は習い事の場所から歩いて10分くらいらしいので、「それなら行こうかな」と、誘いに乗りました。
習い事が終わって外に出て、アユミちゃんの後をついて行くのですが、いつまで経ってもアユミちゃんの家に辿り着きません。
季節は春で、まだまだ暗くなるのが早く、出発した時はまだ明るかったのが、もうすっかり夜のように暗くなっていました。
どれくらい歩いたでしょうか。
体感で30分くらい歩いた時、不安になってアユミちゃんに「ねぇ、もう暗いから、今日はやめとこうかな。また今度遊びに行くよ」と、言いました。
しかし、私の少し先を歩いていたアユミちゃんは振り返らず、「もうすぐだよ」とだけ言って、歩みを止めることがありません。
辺りを見渡しても、私が今まで来たことがない見知らぬ道で、1人で帰ると余計に迷いそうだと思い、仕方なくアユミちゃんの後をついていきました。
それからまた30分くらい経って、やっぱりまだ目的地に辿り着かないので、もう一度アユミちゃんに「ねぇ、やっぱりもう家に帰る」と言いました。
このままアユミちゃんに着いて行ったら、どこに連れて行かれるか分からない。
それなら、迷子になってもいいからアユミちゃんと離れよう、と思ったのです。
なので、続けて「じゃあね、ばいばい」と言って来た道を戻ろうとしましたが、後ろを向いた瞬間、手首を掴まれぐいぐい引っ張られました。
見ると、アユミちゃんが私の手首を強い力で掴み、前へ前へと進もうとしているのです。
「アユミちゃん、手離して。もう帰るから」と伝えても、アユミちゃんは聞き入れてくれません。
アユミちゃんに掴まれた手首が本当に痛くて、泣きながら伝えても、アユミちゃんは黙って前へ進むのです。
無理やりにでも離れようとしましたが、アユミちゃんの力がとても強く、逃げられませんでした。
アユミちゃんに引きずられるように歩いていき、数十分程した頃、やっとアユミちゃんの歩みが止まりました。
「ここ、私の家」と、言って、アユミちゃんはもう片方の手で前を指さすのですが、そこにあるのは誰も住んでいないような廃墟です。
窓ガラスは割れ、壁には蔦が張っており、異様な雰囲気がありました。
私はその廃墟に入るのが嫌で、「早く帰らないとお母さんに怒られるから…」と後ずさりをしましたが、アユミちゃんに手を掴まれているので逃げることが出来ません。
アユミちゃんは再び私の片手を引っ張って、そのまま廃墟の中へ入っていこうとしました。
その時、後ろから「どうしたの、そこは危ないから入っちゃ駄目よ」と、呼び止めるような声が聞こえたのです。
振り向くと、そこには買い物袋を提げた60代くらいの女性がいました。
女性は固まって動けないでいる私の方に歩み寄り、もう一度「こんな暗い時間に1人でどうしたの?迷子?」と言いました。
私が何とか声を振り絞って「アユミちゃんがこの家に住んでるって言ってて…」と言うと、女性は不思議そうな表情で「ええ?ここには何十年も誰も住んでないけど…」と言ったのです。
どういうことだろうと思っていたら、女性が「1人でここに来たの?家は?帰り道が分からないなら近くまで送ってあげようか」と言いました。
私は「1人じゃないです。アユミちゃんと一緒に来ました」と答えて、その時、いつの間にかアユミちゃんがいなくなっていることに気づいたのです。
きょろきょろしていると、女性は腕時計を見て「もう20時よ。家に帰った方がいいよ。それかお家の電話番号が分かるなら、電話して親御さんに迎えに来てもらおうか」と言ってくれました。
(20時って、私、そんなに長く歩いてたんだ…)とびっくりしながら家の電話番号を伝えて、女性に電話してもらって親に迎えに来てもらうことにしたのです。
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