人生で一番最悪の日
投稿者:ぴ (414)
その咀嚼音がものすごくリアルで、私はぞぞぞっと背筋を泡立てました。
咀嚼音の間に、「ひぃ」とか「ぐうう」とか人が苦しんでいるような声が漏れ聞こえてくるのです。
それはまるで、私のすぐ傍で誰かが何者かに捕食されているみたいな声で、気味が悪くておぞましかったです。
あきらかにただならぬ声が聞こえているのは確かでした。
でも私は高熱で朦朧としていたのもあって、最初は熱で幻聴でも聞こえているのかと思いました。
もともとちょっと現実主義なところがあったので、自分に今起こっている非現実的なことが理解できなかったというのもあります。
またあまりに不気味なことが自分の身に起こっていて、現実逃避したかったのかもしれないです。
私は布団を被りなおして、もう一度眠ろうとしました。しかし、何度眠ろうと頑張っても眠れません。
だって耳元で聞こえる人の叫び声と咀嚼音は繰り返し途切れることなく、ずっと聞こえてくるからです。
おそらく次に聞こえたのは「ひゃぁあああ」という少し高めの声だったと思います。
必死で何かから逃げているかのような必死さをはらんだ声で、私は両耳を抑えてその恐怖と戦いました。
そして「うがぁ」というようなタックルを食らわされたような悲鳴がして、それからまたあの咀嚼音。泣きたくなりました。
まるで子供が周りの目を気にせずお菓子を貪り食っているようなくっちゃくちゃいう咀嚼音が耳に響くのです。
「ナニコレ…」と私は半泣きで布団から顔を上げました。
さすがに幻聴というには生々しすぎて、高熱のせいにはできなくなってきました。
さっきから聞こえてくるこのおぞましいやり取りに我慢できなくなり、吐きそうでした。
でも私が一人で耳を抑えて「うるさい」とか「やめて」とか言っても、おぞましい悲鳴と咀嚼音は止まりません。
まるで私の存在は無視でおかまいなしに留まることなく続き、私の体調は余計に悪化していきました。
私は熱の苦しみに加えて、この現象への恐怖心とも戦うことになったのです。
もう何人目かも分からない誰かの悲鳴と誰かが食べられているような咀嚼音が聞こえてきました。途中から泣いてました。
一度テレビをつけて、この音をかき消そうとしたのですが、どんなにテレビの音量を大きくしても、このかすかな声が遮断されることはなかったです。
耳栓などもしてみたけど、まったく効き目はありませんでした。
よく漫画とかで高熱のせいで急に霊感が備わってしまった主人公みたいな話があるじゃないですか。
もしかしてそれが自分に起こっているんじゃないかと思ってドキドキもしました。
もし、このままこの声が聞こえ続けたらどうしようと途方にくれたりもしました。
しばらくして気が付いたら私はそのままベッドで眠っていました。
起きたら時計は夕方の5時になっていて、驚きでした。病院に行くつもりだったけど、私はすっかり眠りこけてお昼ご飯も食べずにぐっすり睡眠を取っていたのです。
そのおかげもあるのかすっかり体の疲れが取れていて、体が楽になっていました。
起きてぼんやりしていたこともあり、しばらくはあのおぞましい叫び声を忘れきっていたのです。
体温計で測ると、熱が平熱にまで下がっていることに一安心しました。
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