優しい老夫婦と騒音を撒き散らす男
投稿者:ぴ (414)
今の時代、騒音によるご近所トラブルで、刺されるなんて全然ありえます。
通常の状態であれば、いくら私でもこんな危険なことしなかったと思うのです。
しかし、もう人生なんてどうにもなれとばかりに荒れていた私は、酒の勢いから思いっきり説教を垂れてしまいました。
おそらく2~30分程度は説教をしたと思うのです。
若者はとくに言い返したりもせず、ひたすら俯いて私の説教を聞いているようでした。
翌朝玄関でお酒を握りしめたまま起きた私は、アルコールが抜けて自分が仕出かしたことを少し後悔しました。
恨みに思われたどうしようとハラハラもしました。
でもその後お隣さんが文句をつけてくることも、危害を加えられることもなく、ほっと一安心しました。
と、同時におそらく説教をしたときの爽快感が忘れられなかったのでしょう。
私はそれから隣の若者が深夜に音楽をかける度に、その部屋に説教をしにいったのです。
私に何度説教されても、その若者はまったく言い返すことはなかったです。
でもそれと同時に騒音を直そうともしませんでした。
それどころか音量が上がっている気さえしました。
私はあまりに腹が立ってきたのと、相手が何を言っても怒らないことをいいことに、その日「うっさい馬鹿野郎」と壁越しに隣に向かって怒鳴りつけました。
そしたら突然隣からドタドタと激しい物音がして、身をすくめたのです。
本当に激しい物音でした。
最初は私の声に反応して、隣の若者がカッとしてこちらに駆け寄る音かと思いました。だからすごく怖かったです。
でも違いました。
明らかに隣に何者かが押し入っているようなそんな物音で、私がどんなに説教しても口を開かなかった若者が何か叫んでいるようでした。
「ごっごっご」と何か物がぶつかるような音がし、壁に何かがぶつかるようなそんな衝撃音もありました。
そして口論と最後に男の悲鳴。私はそれを息を殺して聞きました。
その悲鳴が上がって、その後は静寂が広がりました。
内心ものすごく怖かったです。
明らかに隣でおかしなことが起こっているのが分かりましたし、私は警察に電話するかどうかでずいぶん迷いました。
そんなときだったでしょうか。「ピンポーン」と音がして、インターフォンにあの若者の顔が映りました。
陰気な若者が俯いてイヤホンを付けた状態で、私の部屋の前に佇んでいるのです。
この異様な状況で、さすがの私も部屋の外に出るのを躊躇いました。
私が意を決して外に出ようとしたら、ドア越しに小さな声で若者が「ありがとうございました。」と言っている声が聞こえたのです。
理解が及ばず慌てて外に出たのですが、外には誰の姿もありませんでした。
私は自分がアルコール中毒でどうにかなったのかと自分の正気を疑ったのでした。
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