エレベーターの男
投稿者:びぃ (5)
もう何年も前の話です。
いなか育ちの高校生だった私と友人は、卒業前旅行で関東を訪れておりました。
初めての関東旅行で、初めて訪れる場所ということもあり、事前にいくつか目を着けていたお店を、Googleマップを頼りにぶらぶらと巡っておりました。
その中に一つ、場所がわかりにくく悪戦苦闘したお店がありました。
何度も道に迷ってようやくたどり着いたのは、なんだか薄暗いビル。
こんなとこにこのお店はないだろう、とは思いつつ、とりあえずGoogleマップを信じて中に入ってみることにしました。
ビルは1フロアが10分前後で回れる程度の小さめのビルでした。元は商業施設だったのでしょう。フロアの両端にはシャッターが降り、営業時間外なのか潰れているのか分からないような店ばかりが目立ちました。
若干の不安を抱えつつ、せっかく来たんだからここで帰るのも違うと思い、私達はビル内のマップを頼りにエレベーターの方へと向かいました。
エレベーターの台数は一台。
上ボタンを押して、友人と「絶対間違ったけど念のため行ってみようか(笑)」なんて談笑しながら数分、エレベーターの扉が開きました。
中に居たのは緑色の作業着に帽子を被り、両手でモップを持った、清掃員だと思われる服装をした男性。エレベーターの左奥でそっとたたずむその姿に、「まだ清掃員がいるってことは、やってるお店もあるのかな」なんて呑気に思いつつ、特に気にせず私達もエレベーターに乗り込みました。
目当ての階のボタンを押しながらちらりと覗くと、清掃員が押していたのは私達よりも上の階。
すぐに目的の階についた私達は、後ろに立った清掃員を特に気にすることもなくエレベーターを降りました。
それからぐるりとフロアを一周。どこも一階と変わらず、やっているのかいないのか、わからないようなお店ばかりです。目当てだったお店はやはりどこにもありません。
「やっぱり間違えたみたい…。ごめんね」
と私が言うと友人は笑顔で
「気にしてないよ~。これも経験だし」
といってくれました。
「このビル、他に見るとこも特に無さそうだし、もう外に出ようか」
と私が提案すると
「その前にちょっとお手洗いに行ってきても良い?」
と友人に聞かれました。
私はもちろんと頷き、それじゃあ少し待ってて、と言って走っていく友人を見送りました。
それから7~8分は待ったでしょうか。
いっこうに友人は帰ってきません。
「迷ったのだろうか」、「何かあったのだろうか」、「様子を見に行った方が良いのかな」、「でも腹痛だったら急かすのも悪いし…」、「下手に動くと再会できない可能性もあるかも」、「一緒にいけばよかったな」と
様々な言葉がぐるぐる頭に浮かびました。
そうして、どうするべきか迷いながら待つことさらに2~3分。ようやく友人が姿を現しました。
ホッとしながら
「遅かったね。大丈夫だった?」
と聞くと
「いやもう聞いてよ~」
と不満そうに話し出す友人。
曰く、お手洗いに入ったは良いものの、出ようとしたときに外に人気を感じた。そっと覗くと年配の男性がトイレの前でうろうろと怪しげに歩いている。誰かを待っているのかもしれないが女性トイレにいるのは自分だけ。男性トイレからも特に音は聞こえない。何だか気持ちが悪くて、男が入口から少しでも離れるのを待っていたらこんなに時間がたってしまった…とのこと。
「なにそれ怖」
「ねー、まじでやばかった」
「一人は危ないね。今度からは二人でいこ」
「そうして~」
と不安を紛らわすためにわざと明るく振る舞いながら再びエレベーターの方へ。
「もう早く帰ろ」
「そうだね。残念だけどこのお店はもう諦めよっか」
とエレベーターを待つ私達。
ようやく止まったエレベーターに安心したのも束の間、扉が開いた瞬間、私は固まりました。
エレベーターの中には左奥に男が一人。
緑色の作業着に帽子を被りモップを持ったその男は間違いなく、私達が最初に乗り合わせた男と同一人物でした。
私達が最初にエレベーターに乗ったのは15~20分ほど前。そのときと全く同じ姿、ポーズで佇む男。
直感的に恐怖を感じましたが、清掃場所の移動をしているだけかもしれない、立ち位置が決まってるのかもしれない、と自分を鼓舞しエレベーターに乗った私は、すぐに後悔することになりました。
なんと、エレベーターのボタンはどこの階も押されてはいなかったのです。
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