十吉郎の生まれ変わり
投稿者:ぴ (414)
その日の私は学校が終わってすぐに、トラックで祖父の家に帰りました。
その日は父と母が残業で帰りが遅くて、祖父が学校まで迎えにきてくれたのです。
私は家に帰りつくなり、十吉郎の小屋に行きました。
しかし、その日十吉郎はなんだか元気がなく、いつもなら私が行くと大喜びで飛びついてじゃれてくるはずなのに、具合が悪そうに寝そべっていて、こちらに近づいて来ようともしなかったです。
どうやら数日前から具合が悪くなって、朝から食欲もないらしいのです。
私はすごく心配になってしまって、何度も十吉郎の様子を見に行きました。
ただその度に祖父が一緒に付いてきて、触ろうとしたら「危ないから触るな」と怒られたのが印象的です。
普段は孫にはまったく怒らない祖父にしては珍しく、すごく厳しいぴしゃりとした言い方でした。
あとで聞いたのですが、一度祖父に嚙みつこうと牙を剥いたことがあったのだそうです。
おそらくそのことがあり、祖父も私を心配していたのでしょう。
しばらく祖父の家で、テレビを見たり、話をしたりして、祖母がお風呂を沸かしていたときに、私はふと十吉郎が気になってしまったのです。
祖父がたばこを探していて私から目を離した隙を見て、十吉郎を見にいきました。
そしたら先ほどまで具合が悪そうに寝そべっていた十吉郎が起き上がって私のほうをじっと見ているのを見つけました。
その姿に、私は元気になったのかと思って喜んで近づいて行ったと思います。
頭を撫でて何もしないのをいいことに、私はいつものように全身をなでなでしました。
いつものように「ハッハッ」と嬉しそうに尻尾を振るでもなく、まるで私を品定めするかのように十吉郎はただこっちをじっと観察しているようでした。
そして首の下をいつものように撫でてあげようと腕を持っていったところで、突然十吉郎が牙をむいて襲ってきたのです。
腕とかではなく、あきらかに首元を狙って嚙みついてきたのにゾッとしました。
私は驚いて運よくつんのめったおかげで、軌道がそれて十吉郎は私の肩に嚙みつきました。
噛みつかれたとき叫んだ私の声に反応をして、慌てて祖父が駆け寄ってきたのが分かりました。
祖父が私と十吉郎を引き離そうとしましたが、十吉郎が嚙みついたまま離しません。
さらにまるで食いちぎろうとするみたいに私の肩を揺すぶってきて、私は痛みにギャーギャー泣きました。
祖父は本当に必死でした。
可愛がっていたはずの十吉郎を力技で殴り飛ばして、私を守りました。
十吉郎が次に嚙みついたのは祖父の足でした。
私はその現場を見て、さらに心から恐怖しました。
その間に祖母が意を決して私を助け出してくれて、その後は血が止まらなくて痛くて痛くてたまらなくて恐怖と痛みで意識が朦朧としました。
私はすぐに救急車で運ばれて、そして後に十吉郎が猟銃用の銃で射殺されたと聞きました。
近所でも有名な狂犬とかならともかく、十吉郎はそれまでとても穏やかで人懐こい犬だったのです。
それがどうしてこうなってしまったのか今でも不思議でたまらないです。
生まれ変わりねぇ・・・
ためはち