幽霊の出る居酒屋
投稿者:足が太い (69)
その2人は新規の方らしく、勝手に引き戸が開くところを見て、「心霊現象だ!」「SNSに載せたらバズるかも!」と騒ぎ出したのです。
今まで来た新規のお客さんは、心霊現象を見たら見なかったフリをするか、怖がって静かに食事した後はそーっと帰るかでした。
だから旦那さんも奥さんも私達バイトも、「他のお客さんの迷惑になるので大きな声はあまり…」と、注意しつつ、「幽霊が怒らないといいけど」と心配していたのですが、その心配が現実のものとなってしまいました。
パシャパシャと引き戸の写真を撮る男女に対して幽霊が怒ったのか、バシィィンッ!と、雷のような甲高い大きなラップ音が店内に響き渡ったのです。
そして、開いていた引き戸から、天井まで頭がつきそうなくらい背の高い男の人が店内へと入ってきました。
その日は雨が降っていないのに、男の人は全身ずぶ濡れで、眉間にはシワが寄り、目はつり上がって見るからに怒った顔をしています。
ずる、ずる、と足をひきずるように男の人はゆっくりと男女に近づき、そして目の前まで来たかと思うと、勢いより男女に覆いかぶさりました。
男の人に覆いかぶさられた男女は「ギャー!」と叫んだかと思うと、椅子から転げ落ちて、そのままお店の外へと走って逃げてしまったのです。
男の人は男女が逃げた方向をチラッと見た後、すぅっと消えてしまいました。
それ以来、あの男女はお店に来ていません。
SNSにお店の写真を載せていないか確認しましたが、そういった投稿は見当たりませんでした。
あの時、男女がお店から逃げた後、店内はしーんと静まり返り、そして常連客は誰ともなくお会計をして帰ってしまいました。
翌日からまたお店に来てくれましたが、誰もあの日のことを口に出さなかったのです。
旦那さんも奥さんも、あの日お店にいたバイトも、あの男の人の霊のことは一切口に出しませんでした。
口にすれば自分も同じ目に遭うかもしれない…という恐怖があったからでしょう。
私は、あの日を境にお店へ行くのが怖くなり、3日休んだ後、バイトを辞めました。
誘ってくれた友人Aには悪いと思ったのですが、あそこまでリアルな幽霊を間近で見てしまっては恐ろしくて働けません。
それから数十年後、お店を引き継ぐ人がいないことから居酒屋は閉店してしまいました。
たまにお店の跡地の前を通りがかることがありますが、そのあたりでは「幽霊が出る物件」と知られているからか、未だに新しい店舗は入っていないようです。
数十年前のsnsって何なんでしょう?
ミクシーとか?