煙草
投稿者:コオリノ (3)
短編
2022/04/06
14:21
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その時だった。
何か違和感を感じた。
普段なら何も感じないが何かいつもと違うのだ。
「あっ……」
ポストだ。
扉に設置された簡易ポストに溜まっていたチラシが無くなっている。
いい加減片付けなきゃと、バイトに出かける前に確認したのを俺は覚えていた。
(なぜ?)
疑問に思った俺が簡易ポストの蓋を何気なくめくったその瞬間、
「何だ……?」
匂いがした。
普段嗅ぎ慣れない異臭。
でもよく知っている匂いだ。
その瞬間、俺の身体は凍った池に飛び込んだかのような寒さに包まれた。
ま冬の寒さによるものではない、これは恐怖からくる寒さだ。
血の気が引き思わず膝が崩れ落ちそうになる。
ガクガクと震える足を必死に堪え、俺は咄嗟にさっきの煙草を落とした溝に駆け寄ると、煙草を拾い上げ必死に遠くへと放り投げた。
そして携帯を取り出すと、震える手で必死に番号を打ち込んだ。
規則的に繰り返す機械音を耳にしながら、さっきの女が居た階下に目をやる。
女は居ない。
が、
「ああくそっ!くそくそくそくそぉっ!!」
──ダダダダダダッ、
女の怒号、走り去る激しい足音が真冬の夜空に鳴り響く。
『どうされました?どうされましたか??』
唖然とする俺の耳元で、いつの間にか携帯から男性の声が聞こえていた。
「しょ、消防署の方ですか?」
そう一言返すと、俺は力なくその場にヘタリ込んでしまった。
その後はバタバタだった。
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うまいね