「次はお前だ」
投稿者:足が太い (69)
私が東京のとある町に住んでいた時の話しです。
一人暮らしのマンションから最寄り駅までの間にある道路で、交通事故があったようなのです。
その事故で亡くなった人が出たらしく、事故現場となった道路の片隅には、お花やお菓子などがお供え物として並べられていました。
事故があったと知ってしばらくは、夜中にその道路を通るのが何だか不気味で怖かったのです。
しかし、1ヶ月も経てば、忙しい日々の中で交通事故があったこと自体、すっかり忘れてしまっていました。
交通事故があったのだと思い出したのは、仕事で帰りが遅くなり、終電に乗って最寄り駅に辿り着いた日のこと。
時刻は0時過ぎ、平日の夜ということもあって、人気はありませんでした。
生ぬるい風の吹く5月の夜で、いつもならば遅くても21時頃に外を歩くのもあって、いつもと違う雰囲気に何だか寒くないのに鳥肌が立ったのをよく覚えています。
訳もなく不安になり、さっさと家に帰ろうと思って少し早足で歩いていると、ふと、道路の片隅に子供がうずくまっているのが見えました。
子供は私に背中を向けるようにして地面にうずくまっていて、顔は見えませんが体の小ささ的に4~5歳くらいに見えたので、最初は迷子かと思ったのです。
怖がらせないようにそっと近寄り、「こんなところでどうしたの?お父さんかお母さんは?」と、声をかけました。
すると、子供は返事をすることなく、すーっとそのまま消えてしまったのでした。
その時、「そういえばここで以前、交通事故があって、その時に亡くなったのは幼い子供だったっけ…」と、思い出しました。
幽霊を見てしまったことに気が動転しながら家に帰り、カラカラの喉を潤そうと冷蔵庫を開けた時、ピンポーンとインターフォンが鳴ったのです。
腕時計を見ると針は0時30分を指していて、こんな夜中に訊ねてくる人なんて思い当たりません。
漠然と、「もしかしてさっきの子供の幽霊が家までついてきてしまったんじゃないか…」と、思いながら、物音を立てずに玄関のドアスコープを覗きました。
インターフォンは一定の間隔でピンポーン、ピンポーンと鳴っているのですが、ドアスコープで外を覗き見ても、そこには誰も立っていないのです。
ドアを開ければ何がいるのか分からない恐怖からドアを開ける気が起きず、静かに部屋に戻り、インターフォンの電源を切って、無視することにしました。
すると、ドアの向こうにいる誰かは私の思惑に気づいたかのように、今度はドンドンドン、と、強くドアを叩いてきました。
ますます怖くなった私はベッドの中に入り、頭から布団をかぶってひたすら耐えました。
ドアを叩かれて何時間経ったでしょうか。
私はいつの間にか眠っていたようで、やけに静かになったことにいぶかしみながらベッドから抜け出し、やめておけばいいのに玄関のドアスコープをもう一度覗きました。
この時どうして覗いてしまったのでしょうか、そんなことをしなければあんなもの見なくて済んだのにと、今でも後悔しています。
ドアスコープから外を覗くと、そこには顔が半分ない、血まみれの子供が立っていました。
子供は片方だけ残った目でこちらをじぃーっと見ながら、何かを呟いているのです。
(一体何を言っているんだろう…)
気になった私は子供の唇の動きを読んで、戦慄しました。
子供は、繰り返し繰り返し「次はお前の番」だ、と呟いていたのです。
「うわぁ!」
思わず叫び声を上げてしまい、慌てて自分の口元を抑えましたが遅かったようで、私の声はドアの外にいる子供の幽霊にも聞こえてしまったようでした。
子供はニタァッと邪悪な笑みを浮かべたかと思うと、「開けろ、開けろぉ~」とドンドンと扉を叩きながら叫び出したのです。
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