ラブホテルの部屋で
投稿者:窓 (7)
Aさんは笑うばかりで取り合ってくれません。Bちゃんは心配そうな顔をしています。
退勤間際、隣のロッカーで着替えていたBちゃんがぼそりと呟きました。
「私もあの部屋なんかいやです。怨念みたいなものを感じるんです」
「やっぱり?見られてるって言ってたもんね、もっとちゃんと聞いとくんだった、ごめん」
「気にしてません。ただ……ここ、辞めたほうがいいかもしれません」
「え?」
虚を衝かれて聞き返すとBちゃんは扉をばたんと閉め、強張った顔で断言しました。
「あの部屋、絶対まともじゃありません。そのうち大変なことが起こるかも」
Bちゃんの予感は的中しました。二か月後、私が恐ろしい体験をした部屋でお客がデリヘル嬢に暴行を働く事件がありました。デリヘル嬢は全治三か月の重傷で入院し、ランプシェードや机などの備品もたくさん壊されました。
この事件は当然警察沙汰になったのですが……気がかりなのはデリヘル嬢の怪我です。彼女は左目を負傷していたのです。
排水溝の目と関係あるのだろうか?
私の疑問を解いてくれたのは意外にもAさんでした。事件から間もないある日、更衣室で二人きりになった時にこっそり教えてくれたのです。
「ごめんね、オーナーに口止めされてたから言えなかったんだけど……もうがまんできない」
「どうしたんですか改まって。あの部屋の事ですか?」
「あそこね、前にも事件があったの」
そう前置きしてAさんが語り出したのは、二十年も前に起きた、痴情の縺れによる殺人事件でした。
被害者も今回と同じ風俗嬢で、お客に暴行された末殺されたのですが……その際、ナイフで片目を抉り取られていたそうです。
「待ってください、被害者の目玉はどこに?」
「それがね……まだ見つかっていないそうなの」
Aさんの言葉にぞっとしました。
排水溝から私を見ていたのは事件の被害者の目だったのでしょうか。壁紙に浮き出たのは、被害者の死に顔だったのでしょうか。
怖い