夏祭り
投稿者:GENGO (32)
鳥居まで連れられて行くとすでにB子がいた。
特に何かに着替えるとか持たされるとかもなく、祖母に促されて
黙ってB子と肩を並べて参道を歩きだした。
B子も同じようなことを言われていたのだろう。
一言も口を聞かずに前を見て歩いていた。
神社の裏側は少し暗かった。
AはB子の手をとって安全なほうに導いた。
手をとった瞬間、B子がビクッと緊張したのが
判ったので、嫌がられたのかと思ったが、
そのあとのB子は黙ってそのまま手を繋いでいた。
Aは気恥ずかしい思いをしながら気持ちを抑えた。
二人で黙って参拝し、手を繋いだまま戻った。
鳥居まで戻って手を離すと祖母が頭をなでてくれた。
B子はちょっと恥ずかしそうにただ黙っていた。
緊張して遠くに聞こえていた夏祭りの喧騒が、
ようやくAの耳に戻ってきた。
その後はAはB子といっしょに祭りを楽しんだ。
妙な儀式の話は互いに口にしなかった。
ただ出店を覗いて歩き、たわいもない話で笑いあった。
神社にいたのはほんの2~3時間程度。
その後に親戚宅に戻った一同は、家の前で記念写真を撮ろう、となった。
10人くらいが5~6人くらいづづ前列と後列に分かれて
カメラのほうを向いて並んだ。
Aは前列で、祖母の横に並んだ。
逆の側、Aの左側、前列の左端にはB子が並んできた。
写真撮影係の大人が「ハイ・チーズ!」と言った瞬間、
B子がAの左手をそっと握ってきた。
Aはドキッとしたが、なんとか、少しだけ力をいれて握り返した。
次の日、Aは祖父母の家で目を覚ました。
祖母に聞いたら、
写真を撮った後にAもB子も疲れて眠ってしまったので、
起こさないようにして車で祖父母宅まで送ってもらったという。
Aは親戚にちゃんと挨拶したかった、と祖母に言ったが
祖母は、ごめんね、と少し笑いながら答えただけだった。
青春ですね