宝物の母子手帳
投稿者:繭 (42)
短編
2022/03/01
22:39
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友人が彼氏にフラれました。
さぞショックを受けてるだろうと心配し仕事帰りに立ち寄った所、意外にも元気そうです。
「ひどいよね、三年も付き合っときながらあっさり捨てるなんて。浮気してたんでしょ」
「心配してくれてありがと。でも大丈夫、私にはこの子がいるから」
「えっ妊娠?」
驚いて声を上げれば、幸せそうに微笑んで頷きます。
「産むの?」
「もちろん。お母さんになるんだから落ち込んでらんないよ」
正直不安は拭えないものの、友人が決めた事なら応援しようと決意しました。
その後は友人の住むマンションに通い詰め、家事を代わるなどして体調を気遣ったのですが、しばらくのちに異変に気付きます。お腹が一向に膨らんでこないのです。
「ねえ、気を悪くしないでね。アンタのそれ想像妊娠なんじゃない?本当なら母子手帳見せてよ」
「疑い深いのね」
友人はあきれたように笑って母子手帳を見せてくれました。私の杞憂でした。
それはそれとして、本物の母子手帳にどんな事が書いてあるのか気になります。
友人がトイレに立った隙に手帳を開き……固まりました。そこに書かれていたのは友人の母親が付けた記録でした。母子手帳はお古でした。
トイレから帰ってきた友人は、平たいお腹をなでてうっとり微笑みました。
「この子さえいれば生きていける。元気に産まれてきてね」
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