「乗せてくれじいさん」の話
投稿者:ブラジル産 (11)
そこは四国のある県の中山間地にある峠道で、県の中心街と山間地の寂れた町を繋いでいるくねくねとした細い県道でした。
国道や高速道路を利用しても中心街に行くことができましたが、隣町を迂回する遠まわりだったのでその峠道は地元住民がけっこう利用しているようでした。
私はその地域の人間ではありませんが、仕事の都合でその道を通ったことがありました。
冬の夕方のことでしたが、その日は比較的仕事が早く済み、高速で事務所に帰っても中途半端な時間になりそうなのでちょっとした冒険心からその峠道を下っていくことにしたのでした。
人家などはなく、鬱蒼とした木々や削られた岩場ばかりのその峠道の幾重にも連なるカーブを抜けて少し広い場所に差し掛かると突然カーブの影から顔面の黒い、仙人のような白髪の長髪と長いひげを口周りから顎の下にはやした、汚れた浴衣のようなものを着た身なりの老人が何かを叫ぶように片手をあげて口をパクパクさせながら飛び出してきました。
その口には数本の歯が残っていて、見るも無残なその容姿のせいか、車の前に人が出てきた驚きというよりも妖怪が当然現れたような恐怖で、私は『うわっ!』と急ハンドルで避けてブレーキを踏みました。
反射的にぱっとバックミラーを見るとその老人は10メートルも無いであろう後ろからこちらに向かって走ってきているのでした。
私は心底怖くなり急いでその場から逃げるように道を下ったのです。
無事帰りついて事務所の人たちにこの話をすると「なにか救急的な事情があったのではないか」とか「新手のヒッチハイクか」などの話が出るだけで特に取り合ってはくれませんでした。
特に情報もないままにその後私は転勤となりその地域とは関係が無くなったのでその話自体忘れていたのですが、数年後仕事の用事でその県の事務所に電話をかけた際にその話の後日談がぼやっとした形で話題に登りました。
その社員によると、飛び出してくるじいさんの話は耳にするが、どうやら「乗せてくれ!」といっているらしいとのこと、仮に乗せてあげると「えらい目に会う」とのことでした。
どんなえらい目かは分からないとのことでした。
ほぼ都市伝説状態の話なのですが、これは私が体験した恐怖体験の一つです。
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