峠道に立つ武士の霊
投稿者:ブラジル産 (11)
私の地元には己斐峠という、有名な心霊スポットがあります。古い細い峠道で、登り切る手前にお寺と、山頂近くにお地蔵さんがぽつんと一体立っています。そこから下へ下って行くとボロボロの廃屋があり、そこが昔一家惨殺事件事件があった、いや、家族全員が首吊り自殺をしただとかで、地元の肝試しの名所になっていました。
ある時、母の友達が家に遊びに来た時、たまたまテレビで夏場の心霊特集をやっており、そこでおばさんが教えてくれた話です。
おばさんの親戚で、己斐峠のお寺に勤めているお坊さんがいるそうです。おばさんが「やっぱりあの廃屋は出るの?」と聞くと、お坊さんは「いえ、あちらのことは分かりませんが、うちのお寺には出ますよ」と。
お坊さんの話では、夜中になると山頂のお地蔵さんの横に鎧を纏った武士が佇んでいるそうです。お坊さんは度々会いに行き、お経を唱えてあげるとそれを聞き終わると同時に消えていくのだそうでした。
その話を聞き、しばらくしたある日、私は飲み会の帰りに帰宅するのにタクシーを拾いました。乗車中運転手さんと世間話をしていると、ふとあのお坊さんの話を思い出して訪ねてみました。
「タクシードライバーの方はよく心霊体験をするって聞いたんですが本当ですか。このあたりで言うと己斐峠とか…」
そう言うと運転手さんはちょっと間を置いて、そうですねえと呟くように言いました。
「あそこはね、夜中通るとお地蔵さんのところでエンジンがよく止まるんですよ。まあ、あそこからはずっと下りだから、ブレーキとハンドルでなんとか運転できるでしょ。下まで着いたら、エンジンも元に戻るんですけどね」
あんまり夜中は通りたくないですねえ、
そう言う運転手さんの話を聞きながら、私は本当にあそこに立っているんだな、と実感しました。
今は新しい広い道が作られ、お寺とお地蔵さんにつながる道は殆ど使われなくなってしまいましたが、今でも己斐峠を通る時はあの話を思い出します。
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