都市伝説を“特定”したら……
投稿者:峰 (38)
Aくんは、Nさんの返事などはなから聞いていない様子で、延々と一人でブツブツ言っている。同じ内容を、何度も何度も繰り返しながら、その目はどんどん据わっていくし、運転する姿勢もどんどん前屈みというか、とにかくおかしな感じだった。
車のスピードもどんどん上がっていく。
得体の知れない恐怖を感じながら、Nさんは、ふと以前Aくんとした会話を思い出した。
あ、これ、「呪われた家」だ。
Aくんは、あの呪われた家について話しているんだ。
根拠はないものの、Nさんはそう確信したそうだ。
その時、車がギュッ!と急ブレーキで止まった。
そしてAくんが、
「この家なんだけどさぁ〜」
と言った方を見ると、そこには、ボロボロの瓦や壁がほとんど落ちかけている、青い屋根の、荒れ果てた古い民家が建っていた。
2階と1階の壁の一部分は、火事にでもあったように真っ黒に焼け落ちていて、庭の草木は伸び放題だ。
Nさんは、直感でヤバい、と感じた。
とにかく逃げなければ。
「あっ、あ、あたし、あたしここで降りっ、降りるっ」
Nさんはそう叫んで、停まっている車のドアを開けて外に転がり出た。
幸いにもドアにロックはかかっておらず、Aくんも止めたり追いかけたりしてこなかったそうだ。
来た道を全力で走っていると、住宅街だということもあり、割とすぐに地元の人がポツポツいる公園があった。
人がいることにホッとしたNさんがようやく振り返ると、Aくんの車はまだあの家の前に停まっていた。
しかし、数分もしないうちに、ゆっくりと発進して、どこかへ走り去ってしまった。
それ以来、誰もAくんを見ていない。
大学は、いつのまにか退学扱いになっていた。
Nさんは、その日はなんとかタクシーを呼んで帰宅したそうだ。
後日あの家について調べようとしたが、小さな子どもやお年寄りを含む一家が全員亡くなったというような家は、全く見つからなかった。
Nさんは言う。
「Aくんが話していた、“呪われた家”が本当の事件にまつわるものなのか、ただの都市伝説かはわかりません。
でも、多分Aくん、あの家を“特定”しちゃったんだと思います。Aくんが信じた呪いを、自分で特定して、それで本当に乗り込んじゃったんだと思う。
Aくんがどうなったのかはわからないけど、彼がそのせいでおかしくなっちゃったのは、間違いないと思います。
やっぱオカルト趣味って、リスクがあるんだなって思いました」
Aくんは、今どこでどうしているのだろうか。
皆さんも、怪談や都市伝説をむやみに深追いする時は、どうぞ気をつけてください。
北海道だよね?
特定しました