薄気味悪いトイレにいた人

何十年経った今でも覚えています。

あの時返事したのが誰だったのか。

とある地方のそこそこ中堅の会社に新卒で就職した時の話です。

大手とまではいきませんが、中堅クラスの会社だったので新卒の同期も20名ほどいました。

この会社は入社後3ヶ月間研修があり、その後、各支店へ配属されます。

会社の建物は敷地としては大変大きく、増改築を繰り返したため内部は少し複雑で、新卒の私たちはいつも迷子になりながら研修室へ向かったものです。

同期全員で研修を受ける毎日は学生の延長のような感覚で、休憩中はお互いの話で持ちきりでした。

私は地方から来た者だったのでこの街のことはあまり知らなかったため、地元出身の同期であるAさんに町のことを色々聞いたり話しをしているうちに、すっかりと仲良くなりました。

私たちの会社は何故増改築を繰り返したのか、Aさんに聞くと「元々ここは小学校の跡地だったの。でも、小学校の一部分だけ何故か残されていて、地元話によると市がお金がなく全て取り壊さなかったとか…それから今のこの会社が買い取って会社の一部として残しつつ、会社が増改築を繰り返して大きくしていったとか…て聞いてるよ」と言われ、ふと昔から残されている場所のトイレが気になりました。

恐らくそこは昔の小学校のトイレが残されていて、しっかりとしたドアがついておらず、片面開きの質素な扉のあるトイレの入り口を見かけたのを思い出しました。

どの小学校のトイレの入り口なんてどこにもドアなんか付いてないし、片面開きの扉でもあるだけマシかと思いながら、研修が始まりました。

研修が終わりトイレ休憩の際、ふとそのトイレが気になり面白半分で向かいました。

研修室からやや遠く、西棟と東棟の大体真ん中あたりにあるトイレは、いつも陰っていて日中でも薄暗く気味の悪い場所でした。

いつも研修室で同期たちの明るい声、会社の電話の音、人が歩く足音で気にもしたことなかったのですが、そのトイレの入り口の片面扉。

あたりにはどこにも窓がないのに、誰も使ってた気がしないのに、なぜか小さく「ギッ…ギッ…」と揺れてきしんでました。

トイレの中は真っ暗で、怖くてすぐ引き返し、研修室に程近いトイレで用を足しました。

Aさんに、「さっきあのトイレ行ってみたけど、片面扉が何故か揺れてた！」と言っても、「まさかー誰か使ったあとじゃない？そんな不気味な話し、この会社や前の小学校の時でも聞いたことないよ！事件があったとか事故があったとかそんな話も聞いたこともないから、何か霊的な物を感じるならば、勘違いでしょ！」と言われてしまいました。

あぁ、そっか。私の間違いならいいや。

きっと誰かが使ったあとなんでしょと思って納得し、あまり面白がってそこのトイレを使うというのはやめた方が良いなと思い、日々の研修に明け暮れていました。

研修が終わる日も間近になり、その日は初めてAさんと研修後食事に行く約束をしていました。

しかし朝からお腹が痛くてこの痛みは生理になるかも…と少しナーバスになっていました。

会社でAさんと会うと、何食べに行くか決めた？とか、私が車を出すからね！とわいわい話して、食事に行くのを楽しみにしていました。

その日の研修が全て終わると講師に教材を元に戻しに会議室に返しに行って欲しいと頼まれたのですが、Aさんも「私も手伝うよ！早く返しに行って、ご飯食べに行こ！」と言ってくれたので、2人で会議室に向かいました。

向かっている途中で、生理になった気配がしたのでトイレに行かなければ！と思い、訳をAさんに話してすぐにトイレに向かいました。

向かった先は例のトイレです。そこが1番近いトイレだったので一瞬迷いましたが、「生理用品をセットするだけ。早く済ませばなんともないから。電気をつけたら大丈夫。真夜中とか深夜とかでもないんだから、何が起きても気のせい気のせい」と言い聞かせて、慌ててそのトイレに向かいました。

片面扉を開き、左側の壁にある電気を付けます。パチっとボタンを押すとジジっと電気から音が鳴り、電気を付けても薄暗いトイレ内。

左右に、コンクリートで打ちっぱなしの水だけしかでない蛇口。

ふと見たら、誰かがちゃんと掃除をしに来ているようで、掃除の表が壁にかけてあり、何月何日誰が掃除したか判子も押してあり、ちゃんと人の気配はあるトイレなんだと自分を安心させました。

正面左右に和式のトイレが２つずつ並んでます。

何かあったらすぐ逃げるためと思い、左側手前のトイレに入りました。