いらないならくれよ
投稿者:繭 (42)
短編
2022/02/04
12:01
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私が高校生だった頃の話です。
当時私はクラスで酷いいじめに遭っており、毎日死を考える日々を送っていました。自殺すればこの生き地獄が終わると妄想する一方、家族に迷惑をかけてしまうと思うとどうしても勇気が出ず、その日も重たい足をひきずり駅のホームで電車を待っていました。
電車の到着を待っている間も、あとほんの五歩、白線を越えて踏み出せば楽になれると葛藤していたのですが……
「いらないならくれよ」
突然背中を突付かれて振り向けば、髪と髭がボサボサのホームレスの老人が立っていました。一瞬意味がわからず「え?」と返せば、彼は臭い息を吐いて、私のローファーを見下ろしました。
「これから飛ぶんだろ?いらないならくれよ、靴」
何故わかったのか……次の瞬間ぞっとして、全速力で逃げ出しました。するとホームレスは舌打ちし、「なんだよ飛ばねえのかよ」と濁声で悪態を吐きました。
数日後、私が通学に使っている駅のホームから会社員が飛び下りました。会社員の靴は盗まれており、胴体からちぎれとんだ両足の靴下は真っ赤な血に染まっていたそうです。
あのホームレスは他人の自殺願望を嗅ぎ取り、いらなくなった靴を事前に回収していたのでしょうか。
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死ぬのがわかる人いるっていうもんね