奇妙な果実の正体
投稿者:繭 (42)
私が幼い頃住んでいた町には児童養護施設があり、様々な事情で親と一緒に住めない子たちが暮らしていました。
今でこそ未婚や離婚で片親の家庭も珍しくはありませんが、当時はその手の偏見が根強く施設の子どもたちは色眼鏡で見られていました。
実際その施設から学校に通ってくる子どもたちは一様に顔色が悪く痩せていて、同級生たちは近付きたがりませんでした。
私もなんとなく遠巻きにしていたのですが、ある日転校してきたA子ちゃんと親しくなり偏見が和らぎました。
A子ちゃんの母親は看護師さんですが、現在は経済的な事情で離れて暮らしているそうです。
「A子ちゃんは施設に住んでるんだよね。どんな所?」
「庭の木に変な実がなるんだよ。夜だけ」
「え?」
夜の間だけ木になる果物なんて聞いたことがありません。がぜん興味を持った私はある夜親の目を盗んで家を抜け出し、A子ちゃんの言葉の真偽を確かめに行きました。
児童養護施設の塀をよじのぼって園内を覗いた所、既に灯は消えて静まり返っていました。
にもかかわらず呻き声が聞こえてきたので音の出所に目を向けると、木に不格好な実がなっていました。
いいえ、違います。不格好に膨らんだ袋が枝に吊るされていたのです。
「誰!」
鋭い声で叱り飛ばされ、すっかり肝を潰して逃げ帰ったものの布団に入るまで胸はドキドキしていました。
結局A子ちゃんはすぐ転校してしまいましたが……大人になってから振り返ると、あの袋の中には子どもが詰め込まれていたのではないでしょうか。
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