結婚式場に現れた喪服の老婆
投稿者:峰 (38)
……くっくっくっ……
……ひゃっひゃっひゃっ……
……あはぁっあはぁっあはぁっあはぁっ……
花嫁が涙交じりに両親への感謝の言葉を口にする感動の瞬間には、もはや老婆の笑い声は披露宴会場中に響き渡るような大声になっていたそうです。
Nさんはもう見えないフリ聞こえないフリはできず、真っ青になって俯きながら、唇を噛み締めて耐えていました。
そんなNさんに気がついたのか、先輩が「大丈夫?」と声をかけてくれたそうです。
「体調不良?裏で休んでおいで」
優しい言葉に甘えて、Nさんは逃げるように裏へ移動しました。
血の気が引いたNさんの顔色を見てみんな驚いたらしく、すぐに上司から、しばらく控え室で休むように指示を受けたそうです。
控え室で仮眠を取ったNさんが目を覚ますと、いつのまにか披露宴は終わっていました。
参列者は全て帰り、新郎新婦もすでに着替えて撤収した後のようです。
バタバタと片付けをしているスタッフたちのもとに戻ったNさんは、急いで先ほど声をかけてくれた先輩のところへ行きました。
「先輩、さっきはすみません。ありがとうございました」
「Nさんもう大丈夫なの?無理しないでね」
「はい。少し仮眠したらよくなりました」
「そっかー、それならいいんだけど……」
先輩はそう言うと、何か言いにくそうに口ごもり、Nさんを見つめたそうです。
Nさんが、どうしたんですか?と尋ねると、先輩は周りに聞こえないような小さな声で囁きました。
「……Nさんも、あのお婆さんが見えてたんじゃない?」
驚いて先輩を見ると、先輩は暗い顔でNさんに教えてくれました。
「私もね、見えてたんだ。あのお婆さん、かなり異常だったよね」
「あの……、今までも、あのお婆さん、出たことあるんですか?」
「ううん。私も初めて見た。今までそんな話も聞いたことないし、この式場でも初めてなんじゃないかな……。……多分だけど、あの花嫁さんが連れてきたように思うんだよね……」
「えっ?それって……」
「あのお婆さん、結局、花嫁さんに着いて出て行っちゃったから」
老婆は式の最後まで花嫁にぴったりと張り付いていたそうです。そして、式が終わりドレスから着替え終わった彼女の後について、帰りのタクシーに一緒に乗り込むと、そのままいなくなってしまったそうです。
Nさんはなんと答えたらいいかわからず、恐ろしさと不気味さでとても重い気持ちになりました。
その後、Nさんはどうしてもあの日の老婆と花嫁のことが頭から離れず、披露宴の仕事をするたびに気分が悪くなることが続いたそうです。
結局、それまで楽しく務めていたアルバイトも辞めざるを得ませんでした。
大学を卒業したらそのまま就職しようかとも思っていたそうですが、もしまたあの老婆を見かけたら……と思うと足がすくみ、最終的にはブライダルとは全く関係ない仕事を選んだそうです。
そのタクシーが帰りに事故にあったとかじゃないといいですね...
花嫁さんが幸せに暮らしている事を祈ります。