万燈祭の夜に
投稿者:笑い馬 (6)
恐る恐る振り返る。ジリジリと後退りしてから、懐中電灯で声のしていた辺りを照らした。
何もいなかった。ホッとした。気が抜けて、腕をだらりと垂らす。
手が何か固いモノに当たった。触った感じでは、その固いモノはしっとりと濡れている。明かりで照らしてみれば、それは例の石燈籠であった。
雨が降ったわけでもないのに、しっかりと濡れている。一昨日と石燈籠の色が違った。一昨日は薄いねずみ色だった石燈籠。今日は、赤い。赤黒いと表現した方が正しいか。
「赤い石燈籠に火を灯す」
「赤い燈籠、赤い燈籠」
「赤い石燈籠に行って×××」
O君の言葉、O君の父親の言葉、そしてA君が残した言葉。
赤い、紅い、血の色ーー
血に濡れた紅い石燈籠。それが私の目の前に、異様な存在感を放っている。
私はその場から逃げ出した。
K神社の社務所には夜遅いにも関わらず明かりが灯っていた。神主は私の顔色と手にへばりついた血を見て、全てを察してくれた。
「A君はやはり見つかりませんでしたか」
「はい……」
私は疲れ果て、項垂れた。割れた石仏、赤い石燈籠、獣ように唸る人影。意味の解らない理不尽なことばかり。神主は多くを語らず、ただ二つのことだけを教えてくれた。
一つは「A君はもう戻らない」こと。
もう一つは「荒れ地で私が見た獣のような人影」のことだった。
あれは魔道に落ちた人間だと神主は言う。石燈籠に己の子供の魂を捧げる。魂はロウソクの灯りに例えられる。荒れ地の石燈籠という、太古の昔に巻き起こった争乱で死んだ者たちの怨念が封じられた呪物。それに実の子供の魂を捧げ、さらにもう一人、O君の弟に当たる人物の血液を捧げた。石燈籠に塗られた血はO君の弟のものだろう、神主はそのように説明した。
実の子を殺し、呪いを解き放ったその男。
「何のために、実の子を二人殺して……O君の父親は何がしたかったのです?」
私は神主にそう問うた。
「本人に聞いてください。私は知りたくはありませんがね」と冷たく神主は突き放した。
ーー犬の刻、山岩寺の赤い石燈籠に火を灯す。縄に繋がれ海を渡りし一族が、いざないの炎に捧げられし日、まほろばの怨みは地に満ち野を覆うーー
「ここまではあなた方M村の人々に伝わっている口伝でしたね」
ーー『万燈祭』の日に獣道は開かれるーー
「そして、これがO村にのみ伝わる口伝の続き。さらにもう一節、続きがあります」
神主は真顔でそう語る。
ーー魂、血、肉を捧げる。この世の楔から解き放たれ、海を渡る。永遠の楽土へと海を渡るーー
「どういう……意味ですか?」と私は聞くが「ただのお呪い(おまじない)ですよ。意味などありません」と神主は答えた。
言葉には呪(シュ)が宿るのだと神主は言う。『赤い石燈籠』の儀式、その全文をどこかで知ったOの父親は試してみたくなった。呪がOの父に移ったのだという。O村の特定の家系には「子は親の所有物であり乱雑に扱ってもいい」という因習がまだ残り、Oの父は何の迷いもなく子を贄(ニエ)にした。
「まだいるのですよ。科学の発達した現代でも。呪いを信じ、人を人とも思わない畜○のような行動を取る人間がね。あなた、関わらないことですよ、そのような人々とは。赤い石燈籠のことは忘れなさい。O家のことも、そしてA君のことも」と神主は話を結んだ。
良かった
渡来人!
良い
でも血はA君のじゃなかったのか…A君は神隠し(のようなもの)?
怖い…とは違うけれど、物語としてとても面白かった。
面白かった。
興奮ポイントは少ない。が、脚色すれば何とでもなる。
つまり、元ネタとして使えそうな話