万燈祭の夜に
投稿者:笑い馬 (6)
「子供は死んでもまた産めるだろう」と犯人たちは歯をむき出しにして笑いながら言ったという。
それを聞いたM村の人々は怒りが沸点に達した。M村の者たちは手に鍬や鋤を携え、松明を掲げ、O村の人々に襲いかかった。
逃げ惑うO村の人々。『山岩寺』の境内、山中へと逃げ込む。『祈りの広場』を抜け、石楠花の並木を過ぎて、O村の人々はまだ逃げる。やがて、追い詰めらたO村の人々はある場所で逃げることを諦めた。
ある者は太い木の枝を武器に、ある者は石を投げ、ある者は獣のように噛みついてM村の人々に対抗した。ここにM村とO村の人間たちによる壮絶な殺し合いが始まった。刃物や飛び道具ではなく、木製の農耕具や鈍器での殺し合いである。戦いはまだ日の落ちきらぬ夜七時頃に始まり、数時間に渡って続いた。鈍器が人体を陥没させる鈍い音、骨が折れ、肉はえぐれ、血がじわりと流れ出る。
M家の武人たちが弓矢と鉄器を携え仲裁に入るまで、その地獄は続いたそうだ。
その殺し合いがあった場所にはK神社が建てられ、明治維新までその場所でM村とO村の死者の怨念を鎮めていた。石燈籠もK神社の創設と共に作られ、K神社の移転に伴い、その荒れ地に打ち捨てられたままになった。
『赤い石燈籠』という口伝は、この石燈籠と、争いで流れた血が連想ゲームのようにして組み合わさって生まれた伝説だとか。
「本当はこの話、神主さんには口止めされていたけど。どうしても話したくなってね」
A君はそう言って話を締めた。
その夜、奇妙な夢を見て目が覚めた。『祈りの広場』で私とA君が行灯を捧げた石仏の前に、黒い人影がぼうっと立っている夢だ。
時計の針は午前二時を示している。ふとベッドの横に置いてあるサイドテーブルの方を眺めると、見慣れぬ物が机上に置かれているのが見えた。 K神社の御札。その下にはA君にあげた『万燈祭』のパンフレット。パンフレットには「赤い石燈籠を見に行って×××」とA君の字で書かれていた。最後の三文字は読み取れない。
私は嫌な予感がして、御札を握りしめて家を飛び出した。
『山岩寺』の境内、八十八段の石段を駆け上がる。
先ほど夢に見た場所、『祈りの広場』にある百体の石仏。『万燈祭』の日とは異なり、行灯の明かりが一つたりともなく、場は墨を流したような闇に包まれている。
懐中電灯の頼りない明かりで石仏を照らす。一昨日、私が行灯を捧げた黒い石仏を見る。あの日と変わりない石仏の姿にほっとする。
A君が行灯を捧げた苔むした石仏。その姿は見るも無惨に砕け散っていた。
私は獣道を駆ける。
A君が無事でいて欲しい。それだけを思って石楠花の並木を走る。
荒れ地に着いた。
息を整え、懐中電灯の灯りをゆっくりと石燈籠に向けると。
「アア、アアアアーー」
唸り声、獣のような。手負いの人間があげる断末魔のような。
懐中電灯の光の前を人影が素早く通り過ぎる。
「A君か?」と私は問いかける。
答えはない。
ただ唸り声だけが辺りにこだまする。
ふと、私の真後ろに人が立つ気配がした。そして唸り声がピタリと止まった。
振り返れない。振り返れれば見てしまう。間違いなく何かがいるのだから。
「オマエか」
かすれた声、血生臭い吐息、そして何やら残念そうな調子の声。
舌打ちのような声を発して、真後ろに立つ人の気配は遠ざかっていった。
良かった
渡来人!
良い
でも血はA君のじゃなかったのか…A君は神隠し(のようなもの)?
怖い…とは違うけれど、物語としてとても面白かった。
面白かった。
興奮ポイントは少ない。が、脚色すれば何とでもなる。
つまり、元ネタとして使えそうな話