奇々怪々 お知らせ

呪い・祟り

笑い馬さんによる呪い・祟りにまつわる怖い話の投稿です

万燈祭の夜に
長編 2021/01/11 18:37 42,831view
5

私は「なぜA君が残されるのだ」とか「私も一緒にいる」と主張したのだが、神主は「さっさとお帰りなさい」の一点張りだった。
最終的にA君の「先に帰っていて欲しい」との説得で、しぶしぶ私は実家へと戻った。
実家で待っていると、インターホンが鳴った。出ると、そこにはジーンズに襟付きの白シャツに着替えた神主とA君が立っていた。
「勤めは果たしましたので、また後日、お祓い料金の請求に伺います」と事務的に神主は言い放ち、さっさと車を走らせ去って行った。
「お祓いは終わったのかい?」
「お祓いというか、ほとんど神主さんと話をしていただけだよ。あとコレを貰った」
A君が手に持っているものは、K神社の御札のようだった。これを決して手放さず、毎日肌身離さず持ち歩く必要があるのだとか。
「話がある」とA君は真剣な顔をして言った。
温かいコーヒーを二杯入れて、私の部屋で話を聞いた。A君が語る話は、私の実家がある小さな集落と、『山岩寺』の石燈籠にまつわる物語であった。
それは渡来人の物語であった。

渡来人とは、古代、大陸から日本に渡ってきた人間のことを指すらしい。渡来人はときに新しい技術や思想を持ち込み、日本の文化発展に寄与してきた。
時の政権に依頼され海を渡った渡来人たち。日本では厚遇され、地位を与えられ、また功績があれば土地を与えられ、ある者は日本人として同化した。
しかし頼まれて海を渡った渡来人とは別に、戦争の結果として略奪され、縄に繋がれ海を渡った大陸の者たちがいた。古代の戦争とは土地を取り合うだけでなく、人を取り合うものだった。技術を持った人間をさらう。教養を持った、あるいは知識を持った人間をさらう。何も才能がない人間もとりあえずさらう。そうして日本にやって来た者たちもいた。

渡来人は日本のある場所に住まわされた。
そのある場所は、私の実家がある小さな集落だ。私の実家がある辺りには高い地位を持った渡来人たちが住み、機織り(ハタオリ)や鋳物師(イモノシ)といった専門職についた。
対して、O君の住む集落には縄につながれ海を渡った大陸の者たちが住み着いた。手に職をもたず、呪い(まじない)や雨乞いなどの真似事をして食いつなぎ、まれに労役に出て日銭を稼ぐ。そのような人たちの住処だったという。

私の実家、M家は地生えの豪族であり、これら海を渡って来た者たちの監視役だったそうだ。
「ここまでは、僕が調べて知った。あるいは推測した事柄だよ」とA君は言い、コーヒーを一口だけ飲んで一息ついた。
勤勉なA君は『万燈祭』に参加する前に、祭や寺の起源と集落の歴史について予習していたのだとか。
それから、神主に聞かされたという、『赤い石燈籠』の由来についてA君は語る。

渡来人たちが、M家のある集落(仮にM村とする)で暮らして長く時が過ぎた頃。多く者たちは日本の文化に馴染み、元々日本に暮らしていた人々と深く交流して、やがて日本人としての常識や暮らしを確立して生活し始めた。つまり日本に帰化したわけだ。

ただ、一部の人々、O家のある集落で暮らす人々(仮にO村とする)は断固として日本式の暮らしを受け入れず、元いた国の常識を振りかざして生活していた。
日本式の暮らしを受け入れて、皆の助けになる職業につくM村の者たち。日本式の暮らしを拒否し、まともな職につかぬO村の者たち。当然、前者の暮らしは豊かになり、後者は貧しい暮らしとなった。

「似たような境遇の者同士で貧富の差ができたわけだ」とA君が言う。
「それでO村はM村の人々を妬み、呪いをかけた?」
「違う。もっと酷いことだ」

M村の子供をさらって殺した。股裂き、逆さ吊り、串刺しに火あぶり。人としての尊厳を最大限奪う意図を込めて殺害した。
当然、M村の者たちは怒り、子供を殺したO村の犯人たちの元へ詰め寄った。

子供殺しの犯人たちは「我々の先祖が暮らしていた国では子供殺しは重罪ではない。だからお前たちに我々は裁かれない」と居直った。
彼らの国では親の価値が高く、子の価値は家畜よりも低かった。親がいるから子が産まれる。逆はない。だから、子は偉くない。子は産んでもらった以上、親に忠孝を尽くし、ときには命を捧げるものだという思想がその国にはある。

6/9
コメント(5)
  • 良かった

    2021/02/23/16:47
  • 渡来人!

    2021/05/25/19:59
  • 良い
    でも血はA君のじゃなかったのか…A君は神隠し(のようなもの)?

    2022/07/10/12:14
  • 怖い…とは違うけれど、物語としてとても面白かった。

    2023/08/24/18:56
  • 面白かった。
    興奮ポイントは少ない。が、脚色すれば何とでもなる。
    つまり、元ネタとして使えそうな話

    2023/10/11/12:44

※コメントは承認制のため反映まで時間がかかる場合があります。

怖い話の人気キーワード

奇々怪々に投稿された怖い話の中から、特定のキーワードにまつわる怖い話をご覧いただけます。

気になるキーワードを探してお気に入りの怖い話を見つけてみてください。