万燈祭の夜に
投稿者:笑い馬 (6)
よく考えると、たった三人で肝試しなどして何が楽しいのか。呪いや伝説なんて信じているわけでなし。
獣道と荒れ地はあったが、燈籠は赤くない。普通の石燈籠だった。しいて言えば、少し朽ちていたことが気になったぐらいだ。
白けてしまった私たちは獣道を引きかえし、翌日また三人で集まって一杯飲もうと約束して別れた。
翌日、O君が焼け死んだという話を実家の隣人から聞いた。『万燈祭』からの帰宅後に、自ら部屋に灯油を撒いて火をつけたそうだ。山向こうの集落にあるO君の家は全焼し、O君の家族も火傷を負った。
私とA君は話し合った。昨日の出来事とO君の焼身自殺は何か関係があるのだろうかと。O君が自殺しそうな雰囲気などなかった。しかし、他殺や事故ではないことはO君の家族が証言しているそうだ。
私たちはO君の家族に話を聞きにいくことにした。
O君の父親に会って話を聞いた。顔に火傷を受けたらしく、顔の右半分に包帯を巻いている。
荒れ地の燈籠に火を灯した話を聞かせると、O君の父親は目を見開いて「それで、それで燈籠の色は赤かったのか?」と私の肩を両手でつかんで、ヤクでもキメているかのような顔で叫び出した。
「赤い燈籠、赤い燈籠」
と同じ言葉を繰り返すO君の父親。
父親の後ろでは小学生ぐらいの背丈の少年(確かO君の弟だった)が、狐のような目でこちらをにらみつけていた。
私たちは気味が悪くなって、適当な理由をつけてO家を去った。
いよいよ、『赤い石燈籠』に何か呪いのような超常的な力が宿っているのでは、私たちの身にも何か起こるのではと恐れを抱いた私たちは、『山岩寺』の和尚に助けを乞うた。
和尚は『万燈祭』の後片付けで、忙しそうに提灯を折りたたみながら、面倒くさそうに私たちの話を聞いてくれた。
「話は理解しましたが、当山の管轄ではありませんな。その石燈籠の話は拙僧も聞いたことはありますが、これはK神社の領分ですわ」
とK神社の神主の連絡先を渡された。
明治政府による神仏分離令の公布に伴い 、『山岩寺』 と境内を共有していたK神社は独立分離し、今では別の場所に社殿を構えているのだとか。
K神社に携帯で連絡を入れ、事情を説明すると、「すぐに来てください」とのことだ。電話に出たK神社の神官は若い頼りなさそうな声だった。
隣町のK神社へすぐに向かった。
「また厄介な案件を持ち込んだものですね。困った若者たちだ」
社務所に入ってすぐ、丸眼鏡をかけたヒョロっと背の高い、白い狩衣を着た神主が声をかけてきた。声の感じから、きっと電話に出た人物と同一人物だろう。
「さあお祓いです、素早く済ませましょう。アア忙しい」と早口で言ったかと思うと、私たち二人を神社の本殿へと追い立てた。
横川と名乗った神主は、御幣(ゴヘイ)を二度三度と、本殿の御座の前に座る私たち二人の頭の上を往復させ、祝詞を唱えた。次に、日本酒と思わしき透明な液体が入った杯に手を浸し、そのしぶきを虚空に振りまいた。
「お祓い終わりです」と神官は素っ気なく言った。
「え?これだけ」と私が抗議すると、「あなたはM家の人間でしょうに。ならば赤い石燈籠の呪いには害されませんよ」と不思議なことを言った。
私の実家、M家は古代に存在した『野守』と呼ばれる役職についていた由緒ある一族なのだとか。
だから、石燈籠に火を灯した所を見たぐらいでは、せいぜい悪夢を見るかもしれない程度で済むのだと神主は語る。
「悪夢を見ることすら嫌だ」とまた私が抗議すると、「それくらい我慢なさい」と逆に叱られた。真に理不尽である。
「あなたは先にお帰りなさい。しかしそちらの君は残ってもらいましょう」
神主は御幣でA君を指差した。
良かった
渡来人!
良い
でも血はA君のじゃなかったのか…A君は神隠し(のようなもの)?
怖い…とは違うけれど、物語としてとても面白かった。
面白かった。
興奮ポイントは少ない。が、脚色すれば何とでもなる。
つまり、元ネタとして使えそうな話