私の家は先祖代々養蚕を営んできました。
多くの蚕を煮殺してきた業の深さが関係しているのでしょうか、一族の男は総じて短命です。父も例外ではありません。
まだ幼い私や母の嘆きをよそに、病床に伏せた父は何故か恍惚とし、最期の瞬間を待ち侘びているようにさえ思えました。
「お父さんは死ぬのが怖くないの?」
「怖くないよ。迎えにきてくれるからな」
力なく微笑んだ父の言葉の意味を知るのは一か月後、彼が亡くなる前夜でした。
その夜妙な胸騒ぎがして布団を抜け出すと、障子に女の影が映っていました。
得体の知れない影を追いかけて辿り着いたのは父の部屋です。好奇心に負けて少しだけ障子を開けるや、衝撃的な光景を目の当たりにしました。
父の枕元に美しい白髪の女が正座し、窄めた口から糸を吐き、父に巻き付けていくのです。
彼女が紡ぐ糸は完全に父の顔面を覆い尽くし、息の音を止めてしまいました。
気も狂いそうな恐怖に駆り立てられて逃げ戻り、半狂乱で母を叩き起こして引き返すと、既に父は事切れていました。窒息の原因となった糸は一本残らず消えており、女の姿も見当たりません。
廊下には真っ白な蚕が一匹這っていました。
私の夫もまた、彼女に連れていかれてしまうのでしょうか。
前のページ
1/1
この話は怖かったですか?
怖いに投票する 13票
先祖代々養蚕家なのに蚕様の神様を祀っていなかった?