当然のことながら準備室へ生徒が勝手に入ることは
禁止されていたし、そもそも理科室は南京錠で施錠されている。
引き戸も従来は内側からフック式の鍵がかかっていて開かない。
しかしＳは部活の際に確認してわかっていた。
フック式の鍵は外側から針金とか薄い板とかを差し込んで
操作すれば簡単に外れることを。
開けた鍵をまた閉めることは外側からは出来なかったが。
なのでSは自分だけの秘密の隠れ家として
準備室を時々利用していた。
タバコを吸うなど悪さをしていたわけではない。
昼休みに昼寝をしたくなったときなど、
引き戸からもぐりこんで、段ボールなどを床に敷いて、
手足を伸ばしてノンビリ昼寝をする程度。
もともと理科室や準備室がある場所はほとんど人が
通らない場所であり、
Ｓが出入りをするときに人目がないかちょっと注意していれば、
引き戸があけられること、Ｓが出入りしていること、
出入りした後に鍵が開けっぱなしになっていることが
他者にばれることはなかった。
ある日、いつものようにＳは準備室で昼寝をしていたのだが、
思いのほか深い眠りに落ちてしまったようだった。
Ｓが目を覚ました、というか目が覚めたのは、
理科室の内側に誰かがいて、準備室の戸を開けて入ってきた音が
聞こえたためだった。
「まずい！」と思ったが、幸いにして準備室の戸と
Ｓが寝ている場所の間には薬品棚などがいくつかあって、
まだ入室者からＳは見えていないハズだった。
Ｓのほうからも入室者が誰かは見えなかったが。
だが入室者がこちらに来る足音が聞こえた。
あと数歩、準備室の奥にに入ってきて
薬品棚を回り込めば見つかってしまう。
静かにして物音をたてずに身をひそめるか？
引き戸をあけてその音で気づかれても逃げ出すか？
Ｓは逃げ出すほうを選んだ。
引き戸を開けた瞬間、入室者の足音が強く速くなり、
こちらに向かって駆け込んでくるのが判った。
Ｓは必死で引き戸から滑り出し、逃げ去ろうとした。
だが立ち上がり駆けだそうとしたＳの目に
理科室の入口にかかっている南京錠が見えてしまった。
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