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不思議体験

majicoさんによる不思議体験にまつわる怖い話の投稿です

おばあの音が聞こえる
短編 2021/12/20 21:12 621view

私自身が体験した不思議な話を投稿しようと思います。

私は父、母、祖母、私、妹の5人家族で父も母も共働きだったため、私と妹を育ててくれたのは祖母であるおばあでした。
そんなおばあにまつわる不思議な話です。

話は16年前のことになります。当時私は19歳、自宅から車で30分の歯科医院で歯科助手として働いていました。

働き始めて3ヶ月、まだまだ仕事には慣れず、知らず知らずに溜め込んだストレスを私はおばあに当たってしまっていました。毎日きつい口調や態度でおばあに接してしまう。良くないと思っていても、おばあを見るとイライラが溢れ出してくる。まるで思春期の子供のような私をおばあは顔色ひとつ変えず、いつもと変わらず受け止めてくれていました。

そんな中、突然おばあは脳出血で倒れてしまったのです。

私が仕事から帰ってくると、いつも明かりが点いている家が真っ暗でした。「おばあ?」と言って玄関の引き戸を開けると、真っ暗な家の中から「ガーガー」といびきのような音が聞こえます。真っ暗な中、音がする方へ行くと、おばあは台所でうつ伏せで倒れ「ガーガー」と高いびきをかいていました。

そのまま救急車で病院に運ばれたおばあですが、病名は脳幹出血。いつどうなってもおかしくないので近い親戚を呼んでくださいと担当の医師に言われました。その晩は父がおばあに付き添い、母と私と妹は家へ帰ってきました。

台所にはおばあが作った夕飯がしっかりと準備されていました。その夕飯を食べながら、おばあが死んでしまうかもしれない、おばあの料理はもう食べられない、どうしておばあに優しくできなかったんだろう、いろんな思いが溢れ出し、涙が止まりませんでした。

その日から家で不思議なことが起こり始めました。玄関の引き戸か開く音がする。廊下を歩く音がする。台所で料理をする音がする。その音は私が昔から聞いていた、いつものおばあの音でした。音がする、でもそこにおばあはいない。私だけではない、家族全員が聞いているんです。

おばあ本人は、状態は変わらず眠ったままで病院のベッドの上にいるはずなのに。

それからのおばあは出血を止めるため投与した薬のせいで脳梗塞を併発、状態は更に悪くなる一方でした。父や母、そして叔母が代わる代わるに付き添っていました。その間家では、おばあの音がずっと聞こえていたのです。まるでおばあがいつもと変わらずそこにいるように。

そんなある日、私は茶の間で横になっていました。今にも眠ってしまいそうな中、耳にはいつものおばあの音が聞こえます。今までと何一つ変わらない日常にいるような錯覚の中、私は眠ってしまったのです。

夢の中で私は変わらず茶の間で横になっていました。台所ではおばあが料理をしています。その後ろ姿を見ていると急に涙が溢れ、その背中に「おばあ!」と声をかけていました。おばあはいつものおばあと変わらず振り返りました。久しぶりのおばあ、ずっと会いたかった、話したかったおばあが目の前にいます。涙がボロボロ溢れ、私は泣きじゃくりました。「どうした?」と前掛けで手を拭きながらおばあが少しすり足の足音を響かせながら私の横にやってきます。私は泣きじゃくりながら言いました。

「おばあ、今おばあどうなってるかわかる?脳出血で倒れて病院にいるんだよ。」

おばあは私のことをじっと見つめながら私の言葉を聞き、顔色ひとつ変えずに「えー(そうか)」と答えると私の目の前からスーッと消えていきました。それと同時に私も目が覚めました。現実でも涙でぐしゃぐしゃになっていました。

その後からおばあの音はぴたりとなくなったのです。おばあ本人はその後、脳幹部の出血と脳梗塞を併発していたため意識は戻ることはなかったのですが、状態は安定し、植物状態ではありましたがそれから3年間生きることができました。

私たち家族が聞いていたおばあの音は、あの日おばあは倒れたけれど、生死をさまよっていたおばあの魂は家を離れずにいつもの生活を送っていたのかと思ったりします。

今でも思い出すと切なくなる私の不思議な話です。

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