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心霊

adoooさんによる心霊にまつわる怖い話の投稿です

『生徒』がそこから見ている
短編 2021/11/18 11:48 1,501view

職をいくつか転々とした私は、いまでは拾ってもらった学習塾で働いている。仕事自体に大きな不満はないのだが、最近ひとつ困っていることがある。生徒>がいることだ。塾なんだから、もちろん生徒はたくさんいる。しかし、私が言っているのはふつうの生徒のことではない。こうしているあいだにも、それはきっとすぐそこにいる。

高校生相手の塾なので、生徒は夕方まで学校だから私たちの授業は夜にある。授業をする前の日中の時間帯は、パソコンに向かって教材をつくることが多い。当然、そういうときには画面を見ているわけだが、視界の端にはほかの先生の背中とか、接客用のカウンターとか、いろいろな物が見えている。

私の座席は二列あるうちの後ろの方で、いちばん左端に座っている。私のさらに左側には玄関とか、二階につづく階段があって、席にいると常に視界に入っている。

それは、ふと気づくと、玄関を入って階段にさしかかるあたりに立っているのだ。それ以上、なにをするでもないのだが、誰かがいて、視線を感じる。ふと目を上げても誰もいない。
初めのうちは一々階段まで確認しに行ったが、だれかが見えたためしはない。お化けと言うにはあまりにもふつうに昼間から立っている。何なんだろう。

しかし、それは夜にも姿をあらわすことがある。決まって、一人で校舎に残って仕事を片付けている、ぎりぎり日付が変わるかどうかという時間帯だ。そのときには、立っているだけでなく、「先生」と呼びかけてくる。
反射的に「ハイ」と返事をして顔を上げても誰もいない。あの日もそうだった。あの日、私は疲れて少々イライラしていたのでちょっと大きな声を出してしまった。

「おい、誰かいるのか!いるんだろう!」

万が一、生徒が残っていても色々と厄介なので戸締りの確認がてら、二階、三階を見てまわることにした。

 「誰かいるんだろう。隠れてないで出てきなさい」

二階には誰一人いなかった。すべての教室は真っ暗で、施錠すべきところは施錠されている。

ひとつしかない階段を三階に上がったときに、違和感があった。ぼんやりとした灯りが男子便所から洩れてきている。コンコン…!私はドアをノックしてみた。

 「誰だ、こんな時間まで残っているのは。親御さんが心配するだろう」

ドアには鍵がかかっていて、明らかに中にだれかいるのが見えた。二度、三度、ドアをノックして、ドアノブをがちゃがちゃと動かしても返事のひとつもしない。

 「いいかげんにしなさい。誰なんだ、一体。返事をしなさい」

すると、ジャーっと水の流れる音がして、灯りが消えた。私は息をのんだ。灯りのスイッチは私の手許にあるけれども、私は何もしてない。トイレは古く、自動洗浄の機能なんてついてない。……。

私は財布から十円玉を取り出した。その気になれば、外から小銭を使って開けられるタイプの簡単な鍵だったので、

 「返事をしないのなら、先生、いまからここを開けるからな」

と大きな声で言ってから、灯りのスイッチを入れ、十円玉でドアを開錠した。

 「え……」

そこには誰もおらず、便器の水だけが流れ続けていた。

はっきりしないが、あのときからだろう。それがあらわれる頻度は明らかに増えた。そして、最初は階段からじいっと私を見るだけだったのに、どんどん近づいて来ているような気がする。いまだって、私のすぐ左にあるコピー機の横に立って、私の肩越しにこの画面を見つめているにちがいないのだ。

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