プールのシャワーカーテンの隙間

市民プールで働いている石井さんは、朝9時から夜9時までの長い仕事を2交代制で働いている。

その日は遅番で、昼から出て最後までの仕事だった。

夜8時半ごろになると、お客さんはほとんどいない。8時45分でプールから退出してもらい、スタッフはプールと更衣室の点検に入る。

プールという施設がら、更衣室内のトイレとプールにあるトイレにはシャワーが付いている。用を足した後、シャワーを浴びて利用してもらうためだ。
プール側のシャワーは男性用、女性用ともにカーテンが付いている。もしシャワー中に他の人がトイレに来てドアを開けたら丸見えになる造りだからだ。

最後の点検ではトイレや更衣室の清掃も行う。ホースで排水を流し、ゴミを集めて捨てていく。ロッカーに忘れ物がないかも調べる。

石井さんは他のスタッフと別れ、プールの方のトイレとシャワーの清掃に向かった。

まず男子トイレに入りホースで水を撒く。シャワーのカーテンは空きっぱなしだったので、そのまま水を流して清掃を終えた。
男子トイレのホースを伸ばして、そのまま隣の女子トイレに向かいドアを開けると、シャワー室のカーテンが閉まっていた。

まだお客さんが居るのかもしれないと思い、一度トイレを出た。シャワーを使っている音は聴こえない。
だが、もし女性客がいたのに開けてしまうとまずいので、声をかけてみた。

「すみませーん。そろそろお時間ですので、御退出お願いしまーす」

声がプールに響くだけで何の反応もない。

カーテンの下は10センチほどの隙間がある。少しかがめば足首ぐらいまでは見えるので、ややかがむ姿勢になって確認してみた。

その瞬間、女がこっちを振り返って目が合った。

「あ、すみません！」

と言った瞬間、石井さんはホースを落としてスタッフのいる本部席へ走った。

他のスタッフと一緒に時間をおいて確認しに行ったが、なぜか閉まっていたカーテンが開いていて、だれも居なかった。

「足元の隙間から、振り返る女の顔が見えたんだから。勘弁してくれよ」

女子更衣室で清掃と忘れ物を確認していたスタッフからは、鍵のかかったロッカーはなく下駄箱に靴もなかったと言われた。

それ以来、ドアやカーテン下部の隙間を見ると、あの生気の無い真っ黒な目が頭に浮かぶそうだ。