俺には狐耳のかわいい女の子が守護霊として憑いている。たぶん。
子供の頃の俺は、学校が長期休暇になるたびに祖父母の住む田舎に泊まりにいってた。祖父の口癖は「うちの家系には強い守護霊がいるから、大病には縁がない」だった。祖母も――これは母もだけど、嫁入りしてからは病気らしい病気はしてないと言っていた。
霊なんて信じてなかった俺は、豊かな自然の中で虫を捕まえたり川で泳いだりして、ひとりで遊ぶのが楽しみだった。
ある日、山道で女の子が足を怪我して座り込んでた。子供だった俺に正しい治療の知識なんてあるはずもなく、近くの川まで手を引いて連れて行って、怪我をした部分を川の水で洗ってあげた。
その子はずっと無表情だったんだけど、急に顔を近づけてきたと思ったら、頬にザラついた感覚があった。
それから、俺は彼女と遊ぶようになった。
いつの間にかそばにいて、無表情で一言も喋らなかったけど、話しかけると頷いたり、首をかしげたりして反応はしてくれた。
当時の俺は、たぶん言葉が話せないんだろうと勝手に納得していた。
それでも、一緒に遊ぶのは楽しかったし、いなり寿司をわけてあげると一心不乱に食べていて面白かった。
あと、頭を擦り付けてきたり、ザラついた舌で顔を舐めてきたりする変わった癖もあった。
中学に上がると、俺はいじめの対象になった。
友達のいない俺を庇うやつなんていなかった。
俺が不登校になって、いじめが学校側に露呈するまで、それほど時間はかかっていなかったらしい。
他の人より早く、自主的な夏休みに入った俺は、例年と同じように田舎を訪れていた。そして、無表情だけどかわいく成長したあの子とも毎日会っていた。
川原に座って、ふたりで川を眺めている時だった。
俺の陰気な表情が気になったのかはわからないけど、彼女が顔を覗き込んできた。
俺は彼女に自分の境遇を吐露してしまった――友達がいないことやいじめられていることを。
俺みたいなやつのために、かわいい子が時間を使うのが申し訳なくて、嫌いになってほしかったのかもしれない。
黙って話を聞いていた彼女は俺を押し倒して唇を重ねてきた。下唇に痛みがあって、思わず舐めると血の味がした。けど、彼女は唇を重ねたまま、ザラついた舌で傷口を舐めていた。
どのくらい経ったかわからなかったけど、顔を離した彼女は俺に馬乗りになって微笑んでいた。
「わたしがあなたの新しい守護霊になって護るから、安心してね。子々孫々、末代まで。わたしが――あなたを護るから」
初めて見たかわいい笑顔、初めて聞いた綺麗な声。そして、彼女の頭には狐の耳があった。
いつの間にか、彼女の手には小刀があって、ゆっくりと彼女自身の首を切り裂いた。
噴き出す血は彼女と俺の服を赤く染めた。
彼女は、その傷口に指を刺し入れて、血まみれの指を俺の口に入れた。
知らない間に気を失っていたらしく、起きた時には星空が見えた。慌てて体を起こして周囲を見ても、彼女の死体はなかった。俺の服にも周りにも、血の痕跡はなかった。
友達のいない俺が生み出した、ただの妄想だったのかもしれない。
でも、唇の痛みは本物だった。
祖父の家に帰ると、祖父も祖母も体調不良を訴え、「こんなことは初めてだ」なんて言ってた。
その翌日から、彼女に会うことはなくなり、1週間もしないうちに祖父母は衰弱して亡くなった。
葬式を終えて、両親と共に実家に帰ると、両親も床に伏せるようになった。
























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