ヒッチハイクをやめたのは、
危ない目に遭ったからじゃない。
助けられすぎたからだ。
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二十年前、俺は大学を休学して、山を越える旅をしていた。
理由は曖昧だ。何かを変えたかった気もするし、何も考えていなかった気もする。ただ、講義室とアパートの往復だけで人生が擦り切れていく感じに耐えられなかった。
金はなかった。
だから移動手段はほとんどヒッチハイクだった。
国道沿いに立ち、親指を立てる。最初は怖かったが、慣れてしまえばどうということもない。むしろ、人に拾われるたびに、自分がまだ世界と繋がっていると確認できる気がした。
山に入ると、その感覚は強くなる。
携帯は圏外、店もない。拾ってもらえなければ、そのまま歩くしかない。だから、車が止まるたび、俺は心の底から感謝した。
その日もそうだった。
夕方、霧が降り始めた山道で、一台のワゴン車が止まった。
運転席にいたのは、妙に愛想のいい男だった。
年齢は三十代半ばくらい。目尻の下がった、営業職にいそうな笑顔。
ハンドルの下に、銀色のメダルが下がっていた。
聖クリストファー。
旅人の守護聖人だ。
「いいのつけてますね」
そう言うと、男はバックミラー越しに笑った。
「守られてきましたから」
その言い方が、なぜか引っかかった。
守っている、でもなく、信じている、でもない。
“守られてきた”。
過去形だ。
男のTシャツには、色あせたミッキーマウスが描かれていた。
今のデザインじゃない。子どもの頃、どこかで見た記憶のある、古い絵柄。
洗濯を重ねたせいか、布は薄く、首元が少し伸びていた。
山の中腹まで来たところで、男が言った。
「少し休んでいきませんか」























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