日も落ちかけていたし、正直、ありがたかった。
てっきり山小屋か何かだと思った。
でも、着いたのは家だった。
白い外壁の、やけに新しい家。
周囲に他の建物はない。
山の斜面を削って、そこだけぽつんと置かれたみたいだった。
中に入った瞬間、妙な感覚があった。
――ここ、きれいすぎる。
掃除が行き届いている、という意味じゃない。
埃や汚れがないのはもちろんだが、それ以上に、生活の痕跡が感じられなかった。
靴は揃いすぎている。
家具はあるのに、使い込まれた感じがない。
写真や置物もあるが、すべてが同じ角度、同じ距離で配置されている。
家族がいるらしいが、姿は見えなかった。
声もしない。
テレビもついていない。
「トイレ、使っていいですか」
そう言うと、男はにこやかに廊下の奥を指した。
ドアを閉めた瞬間、聞こえた。
すすり泣き。
最初は、子どもだと思った。
でも、声が低すぎる。
大人の喉を無理に細めて、音だけを押し殺しているような泣き方。
嗚咽も、言葉もない。
ただ、呼吸と一緒に、湿った音だけが続いている。
用を足すどころじゃなくなった。
出ようとした、そのとき。
外から、男の声がした。
「気にしなくていいですよ。
清めの途中ですから」
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