私は夜の自室で鏡の前に座り、暇つぶしにひとりじゃんけんをしていた。
「じゃんけんぽん!」
もちろん、鏡の中の私はいつも通り、私と同じ手を出す。あいこ、あいこ、あいこ……。
最初は笑いながら、「やっぱり鏡って正確だなあ」と思っただけだった。
でも、ふと気づくと、鏡の中の私は少しだけニヤッと笑った気がした。
「……気のせいかな」私は肩をすくめ、もう一度じゃんけん。
「じゃんけんぽん!」
またあいこ……あれ、でも今度は私の手がほんの少し早く、相手の手に勝っていた。
「え?」思わずつぶやく。鏡の中の私は、驚いた顔をしている。
次の瞬間、鏡の中の私が手を振り上げて、手を変えた。
「ぽん!」
また、私の手が勝った。勝つ……勝てる?
奇妙な笑いが喉から漏れる。鏡の中の私も笑っている。
それから毎晩、私は鏡とじゃんけんをした。
最初はおふざけだったのに、勝つたびに妙な感覚が胸に広がる。
胸の奥が、ぎゅっと締め付けられるような……不快なのに、やめられない。
ある晩、私は思い切って声に出して聞いた。
「どうして、勝っちゃうの?」
鏡の中の私が答えるわけもなく、ただニヤッと笑った。
でもその笑いには、私の知らない感情がこもっているようで、ぞくっとした。
次の日、学校で友達とじゃんけんしても、私はいつも勝ってしまう。
最初は楽しいけど、勝つたびに背中がぞくぞくする。
「なんでだろう……?」誰にも言えずに、ただ鏡を見つめる。
ある夜、鏡に手をかざすと、私の手が勝手に動いた。
「ぽん!」
勝った……けど、鏡の中の私の笑顔は消え、代わりに真っ黒な空洞の瞳がこちらを見ていた。
その瞬間、私は全身が凍る。手を引こうとするけど、手は鏡に吸い寄せられるように動く。
「……誰……?」
声にならない声を出して、必死に逃げようとした。
でも鏡の中の私は、静かに、しかし確実に笑っていた。


























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