お正月過ぎの一月中旬、青空がとても綺麗で、とても寒い日でした。
入院中の夫の母親が亡くなったという知らせを受け取りました。
そろそろかと覚悟はしていたので、夫も私もそれほど驚きはしませんでした。
手早く支度をし、最寄りのガソリンスタンドで満タンにして首都高速道路に乗りました。
やたらグルグル回る高速道路に驚いたものです。
初めての道だったので、運転する夫も難儀していたようです。
そんな夫の横顔からは、悲しみの様子はみられず、さすが男だ。なんて思ったものでした。
すみません。本題に戻ります。
指定された斎場に辿りつきました。
ものすごく広い敷地の中に、立派なセレモニーホールや火葬場、その他の施設などすべて揃ったとても近代的な斎場でした。
親族たちはすでに集まっていて、なにやら慌ただし気に動き回っていました。高齢者ばかりで、こんな時でしかお目にかかれないような方々です。
隣の大きくて立派なホールではなくて、小さな二階建てのプレハブ構造の建物に案内されました。
まるで昔ながらの二階建ての木造アパートのような感じがしました。
まさかこんな所で通夜、告別式を執り行うとは思えませんでした。
両サイドには金属製の階段があり、アパートでしたら一階に四世帯、二階にも四世帯、合計八世帯のアパートだと思ってください。
つまり、一階の101号室が葬儀会場だとしたら、その真上の201号室が親族の控室という縦割りシステムの作り方です。どちらの部屋も八畳ほどの広さだったと思います。
木造二階建てアパートを無理やりに葬儀会場にしちゃったような、そんなケチくさい意図がくみ取れるものでした。
その時は不謹慎にもそう思ったものでした。
与えられた部屋は103=203号室でした。
一階では通夜の準備に忙しく、業者が慌ただしく花などを会場に運び込み、セッティング作業をしていました。やがて夕方には満室になったようです。
葬儀屋さんが言っていましたが、年明けのこの時期が一番忙しいのだそうです。昨年末に亡くなり正月休みが明けるまでの間、冷蔵庫に安置されていたご遺体が一斉に順番待ちに従って火葬されるかららしいのです。
夕方、棺に入った義母が安置され、小さなお通夜が始まりました。その後、控室に移動して形式的な通夜振る舞いが行われましたが親戚連中は皆、車の移動がある為、お酒を飲む人はいませんでした。 私と夫だけが結構な量を飲んだみたいです。
親戚はホテルをとったり、息子や娘の家に泊まるからと言いつつ、パラパラと解散しました。あるおばさんは、「こんなところに泊まれるわけがないでしょ!明日の朝にまた来るわ」と言い出ていきました。
でも私は泊まります。だって面倒くさいじゃないですか。
結局私と夫だけがこの部屋に残りました。なにもこんな寒い一月の真夜中に風呂など入らなくてもいいのに、しかもシャワーしか無いのよ。
変に清潔好きな夫は水圧の弱いシャワーを浴び、「さびー。寝るわ」と言ってレンタル煎餅布団に潜り込みました。私も布団に入りましたが、とても寒くて、背中が痛くて眠れませんでした。
居住目的の建物ではないので、床板は薄く、目を凝らしてみると、畳の継ぎ目に隙間があいていて、更にその下の床板にも大きな隙間があり、義母の棺が置いてある一階の様子が見えてしまうのです。
後悔しましたよ。
昔のお通夜は、線香が途切れることがないように、夜間はずっと蝋燭に灯をともし、亡き人を守らなければいけない。と聞いていましたから、そして亡き義母の真上でこんなふうに寝ているのもなんだか申し訳なく思ったので、いびきをかいている夫を起こし、階下にいる義母のところに向かいました。
明日はお骨になってしまう義母さんに、せめて二人でお別れしましょうと言うと、夫もわかってくれました。火事になったら大変だから、絶対に蝋燭や線香は点けないでください。と職員の人に強く言われていましたので、手を合わせるだけにしました。棺の中の義母は穏やかなお顔でした。
真夜中の斎場は暗く、ところどころに灯がありました。ゴーッと低く鳴る音は、ご遺体を安置している冷蔵庫のモーターの音です。
もう寝ようとせかされ、一階の外廊下を進み、部屋に戻ろうとした時でした。
お隣の102号室のドアが勢いよく開き、中から四歳くらいの男の子がいきなり飛び出してきたのです。そしてすぐに若い母親らしき女の人も出てきました。
男の子は活発で、あっという間に二階に続く階段を駆け登ってしまいました。
女の人が私たちに気づき、軽く会釈をして男の子の後を追って行きました。
こんな深夜に、あの親子も親族のお通夜に来て、お線香をあげたのかしら。彼らの去った102号室の灯りは煌々と点いていました。
また、お線香もあげたようで、香りが漂っていました。私はふと、火の始末は大丈夫かしら?と少し心配になりました。
























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