大学に入って一人暮らしを始めたぼくは、アパートの部屋で奇妙なことに気づいた。
壁に貼られた画鋲の穴が、どういうわけか日ごとに増えていく。
はじめは気のせいだと思っていた。前に住んでいた人がつけた穴だろうと。
でも、ある朝、目覚めると、ベッドの真上の天井に、真新しい画鋲の穴が一つ増えていた。
ぼくは驚いて、そこにカレンダーを貼ってごまかした。
それから、小さな違和感が重なり始めた。
玄関のドアを開けようと鍵穴に鍵を差し込むと、ほんの一瞬だけ、鍵が違う形に変わったように感じることがあった。
スーパーの帰り道、いつも通る道なのに、ふと見ると見慣れない建物が建っていた。でも、二度見ると、それはいつもの風景に戻っていた。
友人に話しても、「一人暮らしで神経質になってるんだよ」と笑い飛ばされるだけだった。
ある日、ぼくは部屋の壁に、無数に増えた画鋲の穴を数えてみた。
ぼくがこの部屋に住み始めてから、すでに百個を超えていた。
そのとき、隣の部屋の壁から、コンコン、とノックする音が聞こえた。
ぼくは壁を叩き返した。コンコン。
すると、隣から、コンコンコン、と返ってきた。
規則的なリズムが不気味に感じて、ぼくはノックをやめた。
だが、隣のノックは止まらない。
コンコンコン、コンコンコン、と、ぼくの心臓の音に合わせて叩かれているような錯覚に陥った。
恐ろしくなったぼくは、部屋を飛び出して友人の家に転がり込んだ。
数日後、恐る恐る自分の部屋に戻ると、玄関のドアに、ぼくの名前が書かれたメモが貼られていた。
「お帰りなさい」
不気味に思いながら、ぼくは鍵を開けた。
だが、その鍵穴は、ぼくの鍵とは違う形に変わっていた。
無理やり鍵を押し込むと、鍵は折れてしまった。
仕方なく、大家さんに連絡を取ろうとスマホを取り出すと、画面がぐにゃりと歪んだ。
そして、画面いっぱいに、無数の画鋲の穴が映し出された。
その穴の一つ一つから、ぼくの顔が、歪んだ笑顔でこちらを覗いている。
ぼくは震えながら、壁に背を向けた。
その瞬間、ぼくの背後で、コンコン、とノックする音が聞こえた。
振り返ると、壁に無数の画鋲の穴が空いている。
その穴の一つが、まるで眼のように光っていた。






















なんか見たことあるな草