私はかつて子供の英語教材を売り歩く訪問販売員をしていた時期がありました。
毎日100件近くの家々を片っ端から訪問して回っていると、本当に色々な家庭に出会います。
トータル50,000件ほど訪問した中で、未だに忘れられない御宅が何件かあります。
これはそのうちの一件のお話です。
夏でした。
私はある地方の港町をその日、営業で回っていました。
過疎化も進み寂れ始めていたその町には子供の姿がほとんどなく、子供向け英語教材を買ってくれるような家にはなかなか当たりません。
それでも契約を取らないとクビにされる超絶ブラック企業でしたので、私は一縷の望みを持って各家を訪問して回っていました。
それは古ぼけた平屋でした。
私の呼びかけに玄関の引き戸を開けて顔を出したのは、白髪の老婆でした。見るからにやつれており、健康そうではありません。
どう見ても子供がいそうではなかったので、私は自己紹介も早々に、商品の売り込みはせずに、近所の聞き込みをしようと思いました。
「この辺りに、お子さんのいらっしゃるおうちってありませんかね?」
「・・・・はあ、いないんでないかね」
その時ふと老婆の後方に目を向けた私は、あることに気が付きました。
この家は玄関から直接居間になっていたのですが、
その居間に、祭壇がこしらえてあったのです。
白いこじんまりとした祭壇の上にはお爺さんの遺影が飾ってありました。
まだ棺も置かれているようでした。
(しまった。ご主人を亡くした直後だったのか・・)
























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