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心霊

轟々作さんによる心霊にまつわる怖い話の投稿です

廃墟写真家
短編 2025/08/30 13:01 4,693view
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去年の夏にあった話。
俺は廃墟の写真を見るのが好きで、よく廃墟マニアのサイトをのぞいていた。
そのなかでも特に好きなサイトの運営主が、「あなたの地元にある廃墟を教えてください」って載せていたから、これはと思ってメールしたんだよ。
俺の近所には、もとはなんだったのかもわからないような廃墟があって、前々から気になってたんだ。でも一人で行く勇気もなかったから、ちょうどいいやと思って。

そしたら「ぜひ伺います。よろしければご一緒に行きませんか」って返事が来た。好きなサイトの運営主からそう言われたら、もう答えは決まっている。ちょっと怖かったけど、やっぱり中を見てみたいという気持ちもあった。

当日、運営主さんは車で来た。仮にAさんとしておく。Aさんは大きい一眼レフを持っていて、思ったより年齢が上だった。でも丁寧な人で、好感が持てた。

廃墟の方は、昼間ということもあり怖いというより「汚い」が第一印象だった。瓦礫とゴミと雑草だらけで、人の手が入らないとここまでなるのかと驚いた。

Aさんは「あ、ここいいですね」とか言いつつ、手慣れた様子で写真を撮っていた。さすがだな、と思いつつ少し離れたところで建物を見ていたら、ガシャン、とAさんがいたところから大きな音がした。

カメラを落としたのかと思って振り返ったら、Aさん、扉のガラスを割ってたんだよ。落ちてた瓦礫みたいなもので、ガシャン、ガシャンって。まあもともと割れかけてたんだけど、突然の破壊行為に俺はびっくりした。

「何してるんですか」って聞いたら、「あ、ごめん、ちょっと」とか言って、その割れた扉越しにカメラを向けてた。ああ、撮影のために壊したのかと納得しつつもちょっと引いた。

そうしたら「そこにいますよね」と一言。冗談かと思ったけどAさんは淡々とカメラを向けている。
一気に怖くなった。俺には何も見えないけど、Aさんには見えているんだろうか。怖くて聞けなかった。

「女性ですかねえ」と聞かれたが、見えないのだから答えようもない。でもあまりに当たり前に聞くのが不気味で、「あー、ですかね」とヘラヘラ答えて逃げるしかなかった。

次の部屋に回りながら、「今日は暑いですねえ」とか、「○○さんは今日は何で来られたんですか」とか雑談をしたと思うけど、正直もう帰りたかった。

そうしたら「ここは確か女性が殺されたんですよね」とまた変なことを言う。俺も来る前にこの建物について調べたが、そんなことはどこにも書いていなかった。もともとはホテルだったが経営難で潰れたという、普通の廃墟だったはずだ。

「3階の客室だったと思うんですけど」と、聞いてもないのに具体的な情報を出してくる。どこにそんなこと書いてあったんですか、と聞くと昔の新聞に載っていたという。わざわざ新聞を調べたのか? それとも、もともと知ってたってこと? 意味がわからなかった。

そしてAさんは当然のように3階に向かう。めちゃめちゃ行きたくなかったが、一人になるのも恐ろしかったので、黙ってついて行った。

Aさんは迷うことなく3階のある部屋に入った。わざわざ聞かなかったが、つまりその部屋がその場所ということなんだろうか。でも新聞に号室まで書くものだろうか。

俺は怖かったので部屋に入らず、廊下でAさんが出てくるのを待っていた。Aさんが「あーやっぱりここだね」と言った。何を見てそう確信したのか聞きたかったけど怖すぎた。

Aさんが「ひどいことするねえ」と言った時、「うん」と誰かが言った。俺じゃない。俺じゃない誰かがAさんの言葉に相槌を打った。部屋の方から聞こえた気もするし、耳元で聞こえた気もした。

もう本当に無理だった。用事があるから帰りますというと、Aさんは「わかった、今日はありがとう」とごく普通の挨拶をした。俺はぐずぐずしているとまた声が聞こえるんじゃないかと、急いで帰った。多分Aさんは一人で撮影を続けたんだろう。正気じゃないなと思った。

しばらくしてから、Aさんのホームページにこの廃墟の記事が載った。写真に何か写っているんじゃないかと恐る恐る見てみたが、そんなことはなかった。ただ、記事にはこう書かれていた。

“一緒に回ってくれた地元の方が、女性の刺殺体が発見された部屋を教えてくれた。彼の母親がこのホテルの元従業員ということで、事件について色々と詳しい話を聞くことができた”

このことがあって以来、もうこのホームページは見ていない。

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