小学生の時の話。
放課後よく一緒に遊ぶ友達がいた。仮にAとしておく。
その日も放課後に公園でカードゲームをしていた。そろそろ帰ろうかという時、Aが鍵を無くしたと言い出した。
Aは片親だったため、当時珍しいかぎっ子だった。親が相当怖いらしく、鍵がないと怒られると言って焦っていた。
遅い時間だったが、二人で鍵を探すことにした。その日遊んだ場所をいろいろ探したが、どこにも見当たらなかった。俺は塾の時間があるので、Aには申し訳なかったが帰ることにした。Aも帰ると言っていた。
俺はいつも塾へは親の送迎で通っていた。塾が終わって車で帰る途中、Aと遊んだ公園を通りかかった。
いつもならこんな夜に人影はないのに、その日は誰かがいた。まさかと思ったがAだった。ベンチのあたりにかがみ込み、まだ鍵を探しているらしかった。
手伝ったほうがいいんじゃないかとか、遅いからもう帰りなよと忠告したほうがいいのかとか、一瞬でいろいろと考えたが、そのうちに車は通り過ぎてしまった。通り過ぎてから、以前に先生が「あの公園で児童に声をかける不審者がいるから気をつけるように」と言っていたことを思い出し、通り過ぎてしまったことを後悔した。ただ、それも少し前のことだし、大丈夫だろうと思うことにした。正直、Aに引いていた気持ちもあった。
翌日、Aは学校を休んだ。俺は昨晩のことを激しく後悔した。やっぱり何かあったんじゃないかと不安でたまらなかったが、怖くて何もできなかった。
しかしその翌日にAは普通に学校に来た。俺はすぐに一昨日のことを尋ねた。するとAはこう答えた。
「夜、お母さんと一緒に探したら見つけたよ」
いや、一人だったじゃないか、とは言えなかった。見通しのいい公園だったので、A以外に誰かがいたら俺に見えたはずだ。Aは嘘をついている、とすぐにわかったが何も言えなかった。
Aとはその後も遊んでいたが、俺が中学受験して学区外の中学に通うようになってからは疎遠になった。
しばらくしてから、母からAの父親が再婚したらしいということを聞いた。母のパート先の人が、Aの進学先の高校に子どもが通っており、そこから聞いたと言っていた。
「母親は再婚していないの?」と聞いたら、「何言ってんの?」と母に呆れられた。どうにも話が噛み合わないので改めて聞いたら、Aを引き取って一緒に暮らしていたのは父親の方だということだった。母親は離婚してすぐに事故で亡くなったらしい。
俺はAが片親だということしか知らなかったので、あの一件以来ずっとAが一緒に暮らしているのは母親だと思っていた。そうではなかったのだ。
それからはあの公園には近づいていない。なんとなく、子どもに声をかける不審者も、いないはずのAの母親も、正体は同じなんじゃないかと思っている。























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